傘は、アンブレラのことですよね。でも、傘にも大きくふたつがあって。雨傘と日傘。
つまり、アンブレラとパラソルであります。「傘」の中には、雨傘と日傘とがある。そう言ったほうが正解に近いでしょうね。
ところが、なのであります。アンブレラ umbr ell a はたしかに「雨傘」の意味。1609年頃からの英語なんだとか。
そしてこれはイタリア語の「オンブレラ」 ombr ell a から出た言葉なんだそうです。イタリア語の「オンブラ」は、「影」。要するに「影をつくるもの」の意味であったわけですね。
そうなると、アンブレラは日傘である、そうも言いたくなってくるのでありますが。
では、パラソル p ar as ol はどうなのか。これまた、イタリア語から英語になった言葉。
イタリア語の「パラソレ」から英語の「パラソル」に。パラソレ p ar as o l e は、「ソーレを防ぐもの」の意味だったとか。
つまり、雨傘も日傘も、もともとは似たようなところから出発しているのでしょう。
古代ギリシアにも、傘はあったようですが、やはり日傘。かなり大型の日傘で、貴人の後から、下男が差しかけるのが一般であったという。
少なくとも十八世紀の英國では雨傘にはあまり人気がなかった。雨傘をさすことは、自家用の馬車がないことを意味したので。
やがて十九世紀になって。剣からステッキ、ステッキからアンブレラの時代になったのであります。つまり十九世紀の傘は、剣、身分の象徴だったのです。英國紳士がめったに傘を開かないのは、そのため。
泉 鏡花が、大正十三年に発表した短篇に、『傘』があります。
「江戸じゃあ、そんな傘の持ちようをしちゃあ不可え、往来の邪魔になる。」
これは物語の主人公が、江戸に三代住んだ叔父さんに注意される場面。
傘は自分の身体に引き寄せるが如くに持つべし、というのでしょう。まあ、どんなことにも礼儀作法はありますよね。私が弁えないだけの話で。
泉 鏡花が大正三年に書いた物語に、『革鞄の怪』があります。
「………その男の革鞄が、私の目にフト気に成りはじめた。」
泉 鏡花は、「革鞄」と書いて「かばん」と訓ませているのですが。
そしてこの男のこの鞄には鍵がかかっていて。
「………鍵は投棄てました、決心をしたのです。」
鞄にもヨオロッパと日本との違いがあります。それは、鍵の有無。ヨオロッパの鞄の場合、どんなに小さくても、鍵が。
日本の鞄には鍵がないのは珍しくありません。これは文化の違い。障子や襖に鍵がないように。ヨオロッパの扉に鍵がないのはまずないように。
たぶん「個と他」の区別が曖昧だからなんでしょうね。
どなたか小型の鞄で、一枚革で、鍵付きを、作って頂けませんでしょうか。