鮭は、サーモンですよね。s alm on と書いて、「サーモン」と訓みます。
フランスなら、「ソーモン」 s a um on でしょうか。鮭はどうしてサーモンなのか。
昔むかし。紀元前50年頃。カエサルが今のフランスに遠征。このときガロンヌ川で、鮭を見て。「サルモ!」 s alm o 。「跳んだ」の意味。ここから、「ソーモン」の言葉が生まれたという。
イギリスでは今も昔も、サーモンをよく食べます。たとえば「スモーク・サーモン」だとか。フランスの「ソーモン・フメ」であります。
十七世紀のスコットランドでは、鮭が獲れて獲れて。召使いを雇う時の条件に。
「週に五回以上、サーモンを出さない」。
そんなのがあったらしい。毎日サーモンだと虐待に近かったのでしょうか。
「………その味ひ美なるものは北海より長江をさかのぼりて困苦したるの度にあたれるゆゑならん。」
鈴木牧之著『北越雪譜』に、そのように出ています。
鈴木牧之は、明和七年一月七日に、今の新潟県魚沼郡塩沢町に生まれた人物。牧之と書いて、「ぼくし」と訓みます。牧之のお父さんが、「牧水」の号を持っていたので、「牧之」としたんだそうですね。
鈴木牧之は、十九歳の時に、江戸に。これは商売のために。主に「小千谷縮」を売るために。塩沢の「鈴木」家は、縮と仲買と、質屋を営んでいたので。
江戸に出た鈴木牧之が驚いたのが、江戸の人が「雪」を知らないこと。それが、『北越雪譜』を書く直接の動機だったという。でも、書いているうちにどんどん殖えて。
「晒人は男女ともうちまじり清める事織女の如くす。」
鈴木牧之の『北越雪譜』には、「縮」の製法を詳しく詳しく述べています。「晒」のことだけを申しますと。当時の北越には、「晒屋」という専門職があって。沐浴斎戒の後に、仕事にかかったという。
毎年の一月か二月に、晒す。なぜなら、その時期は一面が雪に覆われているので。
えーと。鮭の話でしたね。
鮭ならではの料理に、「氷頭なます」があります。もちろん鮭の頭の軟骨の酢漬け。美味いものですよね。
「ヒスナマス シラカ入
汁 アワヒ ヒラ竹」
天正十四年の『松屋会記』にそのように出ています。十月十三日のところに。この日の朝。
茶会があって、その折の献立。
ここでの「ヒスナマス」は、おそらく氷頭なますのことかと思われます。天正十四年は、西暦の1586年のことですから、よほど古い時代から、氷頭なますがあったのでしょう。
余談ですが。「シラカ入」は、白昆布の細切りのこと。氷頭なますの、昆布の細切り。合うでしょうね。
鮭が出てくる小説に、『巨匠とマルガリータ』があります。1973年に、
ブルガーコフが発表した物語。
「………脂ののった新鮮な紅鮭の身から蛇のような銀色の光沢をおびた皮を切り離していた。」
また、『巨匠とマルガリータ』には、こんな描写も出てきます。
「そのうちの一人、グレーのサマースーツを着こんだ四十ぐらいの男は……………………。」
これは雑誌の編集長、ミハイル・ベルリオーズの着こなし。
サマースーツは、サマー・スーティングで仕立てたスーツのことです。でも、私たちが誤解しやすいのは、夏向きの涼しいスーツだと思ってしまうこと。
サマースーツの第一義は、「失礼ではないこと」。第二番目に、「涼しさ」。
まず「礼であり、ついで涼」なのです。サマースーツだから絶対涼しいなんていうのは、幻想であります。
どなたか小千谷縮でサマースーツを仕立てた頂けませんでしょうか。