エッグ・カップとエイト・ピーシーズ

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エッグ・カップは、卵立てのことですよね。ボイルド・エッグを食べるときの器。
茹卵は殻つきで出てくるから、殻を割ってから、食べることになっています。殻を割るには、まっすぐに立っていてくれたほうがやりやすい。そのための道具が、エッグ・カップ。
英語での「エッグ・カップ」は、1833年頃から用いられているんだとか。
卵の殻を割るということは殻が砕けることで、あらかじめ殻の置き場を用意してくれておいたほうが良いのかも知れませんが。
小沼 丹が昭和五十二年に発表した短篇に、『エッグ・カップ』があります。ただし物語の時代背景は、昭和二十年の秋におかれているのですが。
物語の語り手「私」は、偶然のことから、アメリカ兵と知り合うことに。銀座で。その頃の銀座には茣蓙を敷いての露店がたくさん並んでいたらしい。
そのひとつに、ガラクタ陶器を拡げている店があって。その前に若い、アルメニア出身の兵士が立ちどまって。
結局、小さな器を四つ買う。店の主は「私」に、「そんなもの買って何に使うのか、訊いてくれ」と。「私」が兵隊に問うと。
「エッグ・カップ!」。
アルメニアの話からウイリアム・サローヤンの話になって。その若者は、「サローヤンは国の誇りだ!」。そんな話も出てくるのですが。
同じ年に、小沼 丹が書いた小説に、『鳥打帽』が。

「それから古風な鳥打帽を被ると、じやあ、と帰つて行つた。」

これは「上松さん」という登場人物について。
「古風な鳥打帽」はどんな形だったのか。私は勝手に「八つ剥」ではなかったかと想像しているのすが。「エイト・ピーシーズ」。
まったくの余談ですが。「八つ剥」よりも古い言葉に、「八つ割」があります。

「夜が明けると、まず十円のカレーライス。はだしで歩けないと八ツ割草履を買うと、二十円取られた。」

織田作之助が、昭和二十一年に発表した『世相』にも、そのように出ています。草履の底が
エイト・ピーシーズの板になっているので、「八つ割」と言ったものです。

「そろりと襖を啓けたのは、小豆色の綾羅紗の外套を引被けて、焦茶の猟帽を目深に冠つた、町人躰の三十歳そこそこの男……………………。」

尾崎紅葉が、明治二十七年に発表した『冷熱』の一節。
尾崎紅葉は「猟帽」と書いて、「ハンチング」のルビを振ってあります。おそらくは、
「ハンチング」の比較的はやい例かと思われます。ここでの「猟帽」もやはり、
エイトzピーシーズではなかったか、と。
どなたか古典的なエイト・ピーシーズを作って頂けませんでしょうか。

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