ピンクとピン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

ピンクは、桃色のことですよね。p ink と書いて、「ピンク」。フランスなら、「ロゼ」r osé が近いのでしょうか。
「桃色」は、桃の花の色に似ているので、その呼び方が生まれたのでしょうね。
ピンク p ink はもともと「ナデシコ」のことなんだとか。ナデシコの花の端は、少しギザギザになっていて。この様子が「ピンク」p ink なので、いつの間にか、「ピンク」の言葉が生まれたんだそうです。
おしゃれのほうでも、「ピンク・コート」があります。もちろん、p ink c o at と書くのです。ピンク・コートは、「正式の狩猟着」の意味。
真紅の、黒襟付きの、フロック ・コートに似たスタイル。緋色なのに、「ピンク・コート」。伝統的なハンティングであるフォックス・ハンティングには、必ずピンク・コートを着る習慣があります。
今と昔は、染料に違いがありまして。真紅がすぐに褪せたものです。また「褪せた緋色」は、ベテランの象徴でもあったのです。そこで、「ピンク・コート」の言い方が生まれたのであります。

「………ピンクかグリーンの派手な色の褪めかかつた奴で……………。」

谷崎潤一郎が、大正十二年に発表した『アヴェ・マリア』に、そのような一節が出てきます。ただし谷崎潤一郎は、「エ」に濁点を添えて「ヴ」の音を創っているのですが。
それはともかく、大正時代すでに「ピンク」の言い方があったものと思われます。

「桃色」が出てくる小説に、『ボヴァリー夫人』があります。1856年に、フロべエルが発表した長篇。

「おしゃれな若者たちはチョッキの胸元に桃色や薄緑のネクタイをひらめかしながら「平場」をねり歩いている。」

ここでの「ネクタイ」は、当時の流行のクラヴァット だったろうと想像されるのですが。
フロベエルの『ボヴァリー夫人は、代表作であり、古典であります。
イギリスの作家、サマセット・モオムが、1954年に発表した『世界の十大小説』にも、『ボヴァリー夫人』は挙げられているほどに。
フロベエルは、この『ボヴァリー夫人』を四年半かけて完成させています。フロベエルは自分が書いた一行を、声に出して読み、少しでも「音の流れ」に乱れがあると、すぐに書き直したと伝えられています。書いては消し、消しては書くの連続から生まれた文章なのでしょう。

「………岩に爪を裂きながら、そして孤独に泣きながら……………。」

フロベエルはある友人に宛てた手紙の中に、『ボヴァリー夫人』の執筆心境を、そんなふうに書いてもいます。
このフロベエルの傑作『ボヴァリー夫人』を読んでおりますと。

「ネクタイには短い金ぐさりでつないだダイアのピンが二本さしてある。」

これは主人公の「エンマ」から眺めての、「ギョーマン」という男のクラヴァット に挿しているピンのこと。
どなたかこんな凝ったピンを作って頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone