シルエットは、輪郭のことですよね。紳士服であろうと、婦人服であろうと、すべての服には、シルエットがあります。
服は例外なく、シルエットの上に成り立っているのです。つまり、服を仕立てることは、シルエットを創ることに外ならないのです。
スーツの場合、シルエットの要は、腰にあります。ウエイスト・ラインに。
はっきりと絞られたウエイスト・ラインは、スーツにめりはりを生みます。シャープなウエイスト・ラインがあるからこそ、肩線の張りや、胸の張りが活きてくるのです。
また、さらには裾にかけての流れをも美しく演出してくれます。
スーツだけに限りませんが。服におけるシルエットの重要性は、いくら強調しすぎても、強調にはなりません。
「………互いに席を譲り合ひ乍ら急いで腰をかける黑い輪郭を見た。」
1925年に、長与善郞が発表した小説『竹澤先生と云ふ人』に、そのような一節があります。これは劇場での演劇がはじまる前の様子として。
長与善郞は、「輪郭」と書いて「シルエツト」のルビを添えているのですが。この文章の少し後には、こんな描写も。
「………すぐその長い手袋をはめた手でオペラグラスを取り出すと………」
これは観客の女性の様子。「長い手袋」で、彼女が長いドレスを着ていることが想像できるでしょう。
シルエットが出てくる小説に、『レストラン「ドイツ亭」』があります。
「ガラスの向こうに黒いシルエットがふらふら動いている。」
この小説は、2018年に、ドイツの作家、アネッテ・ヘスが発表した物語。
この物語は、レストラン「ドイツ亭」の娘である「エーファ」が語るドイツの戦中史という設定になっています。
『レストラン「ドイツ亭」』を読んでおりますと、こんな一文に出会うのですが。
「エーファはベージュ色の鹿革の手袋をはめた。」
これはその年の12月6日の贈り物として、もらった手袋。もしかしたらバックスキンだったでしょうか。いずれにしても、鹿革は伸縮性があって、手袋にもふさわしい素材です。
「………ポケットから鹿皮の真っ黒になった煙草入れと………」
1908年に、国木田独歩が発表した小説『二老人』にも鹿革は出てきます。
これは「石井」と「河田」のふたりが話をしている場面での様子として。
どなたか鹿革の手袋を作って頂けませんでしょうか。