ディナーとティケット・ポケット

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ディナーは、晩餐のことですよね。単なる「夕食」よりは、もっと正式な印象があります。
ひと口にディナーと申しましても、人さまざまで。私なんぞは仮にワインとパンとチーズだけでも、食卓の上にキャンドルがあれば、れっきとしたディナー気分であります。
英語の「ディナー」は、1300年頃から用いられているんだとか。
中世、英国の「ディナー」は、朝食だったという。それというのも、古いフランス語の「ディネール」から来ていて、それは「断食を破る」の意味だった。そんな一節もあるようです。
時代が下がってからの「ディナー」は、昼食。ただし、「正しい食事」の意味でもあったという。
結局、十八世紀になってディナーが晩餐の意味として定着したんだそうですね。
十九世紀の上流階級での食事のマナーは厳格そのもので。食卓のどこに誰が座るのかに至るまで、はっきりと決められていた。一家の主人は、末席。一家の女主人は、上席。
食事中は上品な会話のみ。強い酒も煙草も厳禁。
そのために、食後は一時、別の部屋に。女性たちは、ドロウイング・ルームに。男たちは、スモーキング・ルームに。
後に、このスモーキング・ルームでひととき書き替えたのが、ディナー・ジャケットなのです。もちろん燕尾服から、テイルレス・イヴニングに。
もし十九世紀の食後がそれほど厳格でなかったなら、今のディナー・ジャケットは生まれていなかったでしょう。

ディナーが出てくるミステリに、『ドイツの小さな町』があります。英国の作家、ジョン・ル・カレが、1968年に発表した物語。

「長い食卓の両端には、このディナー・パーティの主人公であるブラッドフィールドとその妻ヘイゼルが占めて………」

これはドイツ、ボンでの様子。ボン駐在の大使館員の屋敷で。物語の語り手は、英国大使館の諜報部員、アラン・ターナー。
また、『ドイツの小さな町』には、こんな文章も出てきます。

「服の仕立てはこの家の造りと同じ軍隊風で、上着の腰の部分を細く絞り、右側の中頃に小さなポケットが一つついている。」

これはアラン・ターナーが、人の屋敷で、持ち主の服装を調べている場面。

これはたぶん「ティケット・ポケット」のことでしょう。
ティケット・ポケットは、1859年に、英国で生まれたものです。旅行用外套の左袖口に。
1875年には、インヴァーネス・コートの袖口にも。今のように上着にティケット・ポケットが添えられようになったのは、1890年頃のことです。
どなたかティケット・ポケットがごく自然に思えるスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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