ヴィクトリアとヴェストン・ノワール

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ヴィクトリアは、人の名前ですよね。また、地名などにも「ヴィクトリア」はあります。
でも、ヴィクトリアで忘れてならないのは、ヴィクトリア女王でしょう。1837年から1901年まで、英国の王であったお方であります。
今、ロンドンに行きますと、「ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館」がありますね。これは1852年に、ヴィクトリア女王ご夫妻のお力により完成したもの。
これは一例で、ヴィクトリア女王の功績を讃える意味での、「ヴィクトリア………」の名称は少なくありません。
ヴィクトリア朝は、英国史のなかでも、「黄金期」とされます。繁栄につぐ繁栄。
「太陽の沈まぬ国」と言われたほどに。それほど多くの植民地を持っていたのです。
ヴィクトリアン・エイジはまた、真面目な、上品な時代でもありました。なぜなら、ヴィクトリア女王ご自身、謹厳この上ないお方だったので。極端なほどに上品が尊ばれた時代だったのです。
ひとつの例ではありますが。「ピアノの靴下」。ピアノの脚が素足なのはよろしくないというので、専用の靴下を履かせることがあったのです。
今日の男たちは、たいていスーツを着ます。ラウンジ・スーツを。ラウンジ・スーツは、1860年頃に生まれています。つまり、ヴィクトリア朝に。今なおラウンジ・スーツにヴィクトリア時代の感覚が遺っているのは当然のことでしょう。

ヴィクトリア時代が出てくる小説に、『変り種』があります。1931年に、英国の作家、サマセット・モオムが発表した短篇。
「ジョージ」という良家の若者が、ピアニストを目指す内容になっています。モオムは短篇の名手でもあって、みごとな名品です。この中に。

「彼女はヴィクトリア朝末期の麗人たちのなかでも、並ぶものないほどに美しく、はなやかで、颯爽とした美女だった。」

これは「ヘリフォード公爵夫人」についての形容として。また、ジョージの着こなしについての説明も出てきます。

「黒の短い上着と縞のズボン、それに当時流行の、ねずみ色の両前のチョッキを着こんでいた。」

「黒の短い上着」。これこそ、ラウンジ・ジャケット以外の何物でもありません。黒のラウンジ・ジャケットに、縞ズボン。
昔の日本では、ディレクターズ・スーツと呼ばれたこともありましたが。
正しくは、「ヴェストン・ノワール」。なぜか、イギリスでは、フランスふうに、「黒の上着」と表現する習慣があります。
どなたか完璧なヴェストン・ノワールを仕立てて頂けませんでしょうか。

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