リノリウムとリザード

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リノリウムは、床材のことですよね。いや、なにも床材と限ったわけではないのでしょうが、昔は多く床に用いられたものです。
リノリウムが出てくる小説に、『風立ちぬ』があります。昭和十三年に、堀 辰雄が発表した物語。その時には、500部限定本だったという。堀 辰雄、三十四歳の時。今では堀 辰雄の名作とされていること、ご存じの通り。
『風立ちぬ』と川端康成とが、少し関係しています。堀 辰雄が、『風立ちぬ』を書きはじめたのは、信濃追分の宿、「油屋」で。昭和十一年の十月に。
そして、昭和十二年十二月。川端康成の軽井沢の山荘に移って、ここで『風立ちぬ』を完成させているのですね。

「リノリウムで床を張った病室には、すべて真っ白に塗られたベッドと卓と椅子と………」

これはサナトリウムでの様子として。言葉遊びするわけではありませんが。リノリウムの床がもっともふさわしいのは、サナトリウムではないでしょうか。

ところで、なぜ、『風立ちぬ』の題名なのか。これは、ポオル・ヴァレリイの詩の一節、「風立ちぬ」から来ているとのことです。事実、『風立ちぬ』の冒頭には、ヴァレリイの詩が掲げられています。

昭和八年、堀 辰雄は軽井沢の「つるや旅館」に滞在し、ここで矢野綾子と出会っています。
矢野綾子は後にサナトリウムに。これらの事実をもとに小説に仕上げたのが、『風立ちぬ』なのです。

「サナトリウムに着くと、私達は、その一番奥の方の、裏がすぐ雑木林になっている、病棟の二階の第一号室に入れられた。」

『風立ちぬ』には、そのように書いてあります。これまた、ほんとうにあったことなのです。

リノリウムが出てくる小説に、『通過者』があります。2011年に、フランスの作家、ジャン=クリストフ・グランジェが発表した物語。

「マティアスは白い壁にベージュのリノリウム床、裸のパイプが配管されている廊下に入った。」

マティアスはこの物語の主人公。また、『通過者』には、こんな描写も出てきます。

「男は帽子ー本物の(ステットソン)ーを被り、リザードのカウボーイ・ブーツを履いていた。」

これはマティアスが、カウボーイと出会う場面として。
リザードは爬虫類の革のことですね。カウボーイ・ブーツには、しばしば用いられる素材です。
どなたかリザードの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。

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