パンケーキはホットケーキのことですよね。パンケーキは英語式、ホットケーキは日本語式といったところでしょうか。
厚い、やわらかいホットケーキを食べるのは、無上の歓びであります。ホットケーキと同じくらいの厚さにバターを切って、メイプル・シロップで池を作りながら頂くのは、至福のひとときであります。
昔話ではありますが。以前、神田に「万惣」という果物屋がありました。たしかに果物屋なんですが、二階がフルーツパーラーになっていて。ここで出されるホットケーキはまことに魅惑的でありました。
この「万惣」で食事した作家に、伊藤 整がいます。そうです、あの『チャタレー夫人の恋人』の日本語訳者であります。
「………須田町の丸惣にて食事し、地下鉄入口にて散髪し、渋谷に出て帰る。」
1956年6月29日(金)の『伊藤 整 日記』には、そのように出ています。ここでの丸惣は「万惣」のことです。
この『日記』の少し前に。
「………白っぽい毛の鳥打を買い………」
そのように書いています。
この時、伊藤 整は、神田で夏のハンチングを買ったものと思われます。
伊藤 整は作家であると同時に、大学教授でもありました。ある年の十二月に、その年最後の授業があって。授業が終わっても伊藤
整は教壇に立っている。生徒たちが不思議そうに見ていると、やがて口を開いて。
「もし、諸君の中で今金が必要な人がいたら、私に言って下さい。」
1955年の伊藤 整の収入は、1300万円だったという。伊藤 整はそれをすべて自分で遣おうとは思っていなかったようですね。
1954年に、一橋大学の生徒が、寄金を求めて来て。同人雑誌発行のために。伊藤
整は一万円を寄付しています。後になって分かったのは、その学生、後の石原慎太郎だったとのことです。
「………そこから銀座に出て田屋で鳥打帽を買い………」
1955年6月30日(木)の『日記』に、そのように書いています。
伊藤 整の『日記』に、たびたび「鳥打帽」が出てくるのは、間違いないところです。
どなたか1950年代のハンチングを再現して頂けませんでしょうか。