ハンドバッグは、手鞄のことですよね。手で持つ鞄なので、「ハンドバッグ」。肩から下げる鞄なら、「ショルダーバッグ」。背に背負う鞄なら、「バックパック」なのでしょうか。
ハンドバッグは、主に女性用。仮に男が手に持っても、ハンドバッグとは申しません。ダレス・バッグだとか、ブリーフ・ケイスだとか、アタッシェ・ケイスと、それぞれの名称で呼ばれることになります。
では、なぜ、女が手に持った場合に限って、「ハンドバッグ」になるのでしょうか。それはミステリアスな小道具だから。男の鞄はたいてい大したこともない書類が入っているだけ。
それに競べますと、女の鞄には何が入っていても、不思議ではありません。それは秘密であり、謎であります。
つまり、このような見方からハンドバッグを定義いたしますと、「秘密の小箱」なのです。これを逆に申しますと。とても「秘密の小箱」には思えないハンドバッグは、失敗ということになるでしょう。
「サッとばかりにハンドバッグから黒塗りのピストルを取って構えるシーンがあって、それが良くて良くて仕方がなくて、その映画を三度見たことがあった。」
團伊玖磨の名随筆『パイプのけむり』に、そのような一節が出てきます。
やはりハンドバッグは謎めいているほどよろしいのでしょう。
ハンドバッグが出てくるミステリに、『桃色の胸衣』があります。昭和十年に、森下雨村が発表した探偵小説。
「………胸のあたりにハンドバッグを抱えた彼女は、何か気にするように背後をチラと振向くと………」
また、『桃色の胸衣』には、こんな描写も出てきます。ついでながら森下雨村は、「胸衣」と書いて、「ブラウス」のルビを添えています。
「………鳥打帽とソフトの、どっちも同じように外套の襟を立てた二人の男が………」
これは当時の横濱駅での、刑事。その時代には、刑事に鳥打帽は付き物だったようです。
森下雨村は、「鳥打帽」と書いて、「ハンチング」のルビをふっているのですが。
どなたか昭和十年のハンティングを復活させて頂けませんでしょうか。