ドライは、「辛口」のことですよね。dry
と書いて、「ドライ」と訓みます。もともとは「乾いた」の意味なのでしょう。が、時には人間性についても使われることがあります。
「ドライな人」だとか。人は誰しもドライな面とウエットな面とを持っています。そしてドライだけでも生きられず、ウエットだけでも生きられないのが、人生というものでしょう。
ドライの反対を、あえて「スゥイート」と考えてみてはどんなものでしょうか。スゥイートに生きる。スゥイートに人に接する。そのようにありたいなあとは思いますが、なかなか難しいものですね。
ドライならドライであるほどよろしいものが、マティーニ。「ドライ・マティーニ」というではありませんか。
ドライ・マティーニが出てくるミステリに、『高い窓』があります。1942年に、レイモンド・チャンドラーが発表した物語。
「ドライ・マティーニがいいなあ」
これはとあるバアでのマーロウの注文として。
バアでドライ・マティーニを注文するのは、珍しくありません。でも、この場合のマーロウは、ちょっと特別の注文だったのです。
マーロウの先客は立派な紳士で。紳士であるにも関わらず、バアテンダーを大きな声で罵倒。その罵倒されたバアテンダーを慰めるために、マーロウはカウンターへ行く。そして、いう。
「ドライ・マティーニがいいなあ」
つまりこれは慰めのためのひとつのきっかけなのです。結局は、「人間にもいろんなのがいるから、気にすることないよ」という辺りに落ち着くのですが。
この一節を読むと、誰でのがマーロウのファンになることでしょう。「マーロウって実はスゥイートな男なんだ」と。
夏にスゥイートな生地に、「トロピカル」tropical があります。
強撚糸を使って織ってあるので、爽やかな肌ざわりがあります。また、絹にも似た美しい光沢を持っている生地でもあります。文字通り、「熱帯」でも着たいような質感が特徴のものです。
「灰色がかったブルーのウステッドのトロピカル・スーツに、白と黒の靴を履き、くすんだ象牙色のシャツを着て………」
これはマーロウの事務所にやって来たレスリー・マードックの着こなし。夏なので、「トロピカル・スーツ」なんですね。
日本語訳者、村上春樹は、「ウステッド」と表記しているのですが。
どなたかトロピカルのスリーピース・スーツを仕立てて頂けませんでしょうか。