ホテルとポオネーズ

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ホテルは、西洋宿のことですよね。西洋旅館でもあります。
ホテル hotel  は、中世英語の「ホスピターレ」と関係があるんだとか。つまり、ホスピタルとホテルとは、同じところから出発しているらしいのです。
ホテルでの愉しみのひとつに、朝食があります。まずはじめにオレンジ・ジュースが運ばれてきて。なんだか夢の一日の幕開きのようです。

「………銀のエッグ・スタンドに半熟卵が立ててあって、しかもお皿の上には更にもう一つ卵が添えられているというのは、何と豪奢な朝食だろう!」

江藤 淳の随筆『渚ホテルの朝食』に、そのように出ています。
昭和十三年頃の話として。当時は鎌倉の海よりに「渚ホテル」があったのですが。小さな、目立たないホテルで、お忍びで通う人もあったらしい。
昔話というのであれば、「本郷菊富士ホテル」でしょうか。一言で申しますと、文壇ホテル。とにかく、竹久夢二が住んでいたというのですから。
作家の近藤富枝には、『本郷菊富士ホテル』の著書があります。
大正八年頃、「本郷菊富士ホテル」の客だったのが、谷崎潤一郎。この谷崎潤一郎を訪ねたのが、石井八重子。舞踏家、石井 漠の奥様。その時、谷崎潤一郎は石井八重子に毛皮を贈ったという。その場ですぐに洋服屋を呼んで、採寸させたそうですね。
ある時、偶然に、菊池 寛と擦れ違ったことがあるという。まさに文壇ホテルならではのことでしょう。

「文壇旅館」なら、今でもあるのではないでしょうか。神楽坂の「和可菜」。和可菜に籠ると原稿が書ける。そんな噂のあった宿です。

「………いちばん古いレインコートを羽織り、懐中ニ、三千円、カバンの中に原稿用紙と鉛筆、チリ紙、煙草、老眼鏡、これでは和可菜へおもむく他ないのだ。」

野坂昭如は『週刊朝日』の随筆に、そんな文章を書いています。

ホテルが出てくる小説に、『子ども』があります。1879年に、フランスの作家、ジュール・ヴァレスの発表した物語。いや、ヴァレスの自伝とも言いたい内容になっているのですが。

「ホテルへ行く、それも〈白馬亭〉か〈金獅子館〉に行けるのだと思って、ぼくは興奮で胸をどきどきさせていた。」

これはナントでの様子として。ヴァレスは当時、実際に、ナントに移住もしています。
また、『子ども』には、こんな描写も出てきます。

「………端から端まで縫いつけようというのだ、まるでポロネーズみたいに! ポオネーズみたいにだ、ジャック!」

「ポオネーズ」polonnaise は、当時流行した外套の形。装飾的な楕円形のボタンをたくさん並べるのが、特徴。ポーランドふうのデザインというわけです。
どなたか十九世紀のポロネーズを再現して頂けませんでしょうか。

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