シュトゥッツガルトと白麻

シュトゥッツガルトは、ドイツの地名ですよね。
Stuttgart と書いて「シュトゥッツガルト」と訓みます。
シュトゥッツガルトと関係あるものに、「ドネルケバブ」があるんだそうです。
ドネルケバブは、トルコ式の焼肉。肉は肉でも多くラムが用いられるとのこと。
ラムを大きな柱のように串に刺して。それを回転させながら、焼く。焼けたところから薄くきって。パンなどにはさんで食べるわけですね。
ハンバーガーに似ていなくもありませんが。
あのドネルケバブは、ドイツのシュトゥッツガルトから広まったとの説があります。
1960年にシュトゥッツガルトにやって来たトルコ人に、カデル・ヌルマンという男がいまして。一時期、「ダイムラー」に勤めたこともあるらしい。
の後、街に出て、ドネルケバブを売ることになったとか。
今ではドイツ中に、約1万6千軒ほどのドネルケバブの店があるんだそうですね。
シュトゥッツガルトが、自動車の聖地であるのは、いうまでもないでしょう。
今、多くのメルセデス・ベンツがシュトゥッツガルトで生産されています。
1868年に、カール・ベンツが自動車を発明したのも、シュトゥッツガルトだったのですからね。
そして偶然にも同じ年に、ゴットリープ・ダイムラーが自動車を完成させています。
戦前の皇室では、特別製の「グロッサー・メルセデス」が用いられていたという。
この皇室専用車は現在、シュトゥッツガルトの「自動車博物館」所蔵になっています。
後部扉に菊の御紋が入っていますから、間違いありません。
「グロッサー・メルセデス」は、1930年に少しだけ生産されて。1937年にモデルチェンジされているとのこと。
グロッサー・メルセデスは、7リットルの直列八気筒のエンジン。ここから230馬力を生み出したと伝えられています。八人乗りのロング・ボディー。
シュトゥッツガルトが出てくる小説に、『メルセデスの伝説』があります。1985年に、五木寛之が発表した物語。

「六月下旬のその日、デュッセルドルフからフランクフルトを経由して、シュツットガルトへむかおうとしている黒い280Eの走りっぷりは、いささかその車格にふさわしからぬ強引なものだった。」

『メルセデスの伝説』はこのようにさりげなくはじまるのですが。このベンツのハンドルを握っているのが、三十九歳の劇作家、鳥井 貢という設定になっています。
鳥井 貢は、『メルセデスの伝説』の主役。
そして、もうひとつの主役が、グロッサー・メルセデス。
『メルセデスの伝説』は、読みはじめると、面白くて、途中でやめることが出来ません。

「あのグロッサーが〈銀のメルセデス〉と呼ばれたのは、その内装、外装に惜しげもなく純銀の細工をほどこしたからです。」

五木寛之は、そのように書いています。
また、『メルセデスの伝説』には、こんな描写も出てきます。

「その老人は、白い麻の上衣を着て、太いステッキをついていた。」

これはグロッサー・メルセデスの秘密を知っている黒部満州男の着こなしとして。
「白い麻の上衣」。戦前の日本では盛夏には、必ず白麻の背広を着たもの。
まるでそれが紳士の制服でもあるかのように。
右の紳士も白麻。左の紳士も白麻。
どなたか1930年代の白麻背広を仕立てて頂けませんでしょうか。