ストライプト・トラウザーズ(striped trousers)

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脚衣の伝統美

ストライプト・トラウザーズは縞ズボンのことである。
ここでの「縞ズボン」は、黒とグレイとによる縞柄のものであって、主に礼装用として使われる。ひとつの例として、モーニング・コートにはストライプト・トラウザーズを合わせることが多い。
もっともモーニング・コート以外にも、ブラック・ジャケットに合わせることもある。昔は英国上流階級の執事などが着たもので、なぜか「ヴェストン・ノワール」とフランス風に呼んだりするのである。
今の「モーニング・コート」が確立されるのは十九世紀中頃のことであって、それ以前には「ニュウマーケット・コート」の名称があった。このニュウマーケット・コートがあらわれるのは、1828年ころと記録されている。
ニュウマーケットはイングランド東部、サフォーク州の有名な競馬場のことであって、つまりは競馬見物に最適の服装と考えられていたのである。
このことからも想像できるように、ストライプト・トラウザーズもまた、馬と関係しているのだ。ごく簡単にいって、乗馬用ズボンからはじまった生地であり、柄なのだ。
昔、「ナンキーン」 nankeen という生地があった。「ナンキン木綿」のことである。これはたいてい大胆な縞柄であって、丈夫なのでよく乗馬ズボンに使われたのだ。もちろん中国の南京に由来しての命名で、十八世紀以降の英国ではよく使われた素材であった。
このナンキーンが十九世紀以降大いに出世して、ストライプト・トラウザーズに変化したものであろう。ナンキーンに代表されるストライプト・トラウザーズが街着として使われるようになったのは、十九世紀はじめのこと。当時の英国人の頭には「ズボンは縞」という印象があったのだろう。繰り返しではあるが、それは乗馬ズボンから出ているのである。それに織が緻密で、丈夫でもあったからだ。ただし初期のストライプト・トラウザーズは、イエローやライト・ブラウンが多かったようであるが。
このイエローのストライプト・トラウザーズが、ブラック・アンド・グレイで表現されるようになるのが、十九世紀中頃のことである。それは黒をはじめとするダークなモーニング・コートに合わせるのに、都合が良かったからである。
1864年『ミニスター・ガゼット・オブ・ファッション』誌6月号に、モーニング・コート姿が描かれている。今のモーニング・コートとは少し違ってはいるが、それに組み合わされているのは間違いなくストライプト・トラウザーズである。それは完全なペッグ・トップ型になっている。ペッグ・トップは「西洋独楽」のことであって、極端な先細のシルエットのことなのだ。
これらのことなどを考え合わせて、モーニング・コートにストライプト・トラウザーズを合わせるのが流行になるのは、1860年頃のことと思われる。時と場合によっては、フロック・コートにも合わせることがあったようである。
1878年『ザ・テイラー&カッター』誌には、フロック・コートにストライプト・トラウザーズの組み合わせが掲載されているからだ。
1889年『ザ・テイラー&カッター』誌7月号には、ダブル前のモーニング・コートが紹介されている。その下がストライプト・トラウザーズになっているのは、言うまでもないだろう。おそらく1880年代には、モーニング・コートとストライプト・トラウザーズのセットが常識となっていたものと思われる。
1889年『ザ・テイラー&カッター』誌6月号には、ラウンジ・ジャケットにストライプト・トラウザーズの組み合わせが出ている。いわゆる「ヴェストン・ノワール」であるが、その比較的はやい例であろう。
「ヴェストン・ノワール」はモーニング・コート手前、遠慮という意味であって、当時としては「謙虚」を絵に描いての服装であったのだ。その意味でも上流階級の使用人が着るにふさわしい、ある種のユニフォームでもあったのだろう。

「そこに入場するには[ 男の場合には] モーニングと縞ズボンと、青味がかった薄ねずみ色のシルクハットと……」

トニ・マイエール著大塚幸男訳『イギリス人の生活』( 1960年刊 ) には、そのように書かれている。これはアスコット競馬場、ロイアル・ボックスでの服装にふれた部分なのだ。アスコット競馬場でも、ストライプト・トラウザーズが必要になるわけである。

「ヴェストン・ヌワールという略礼装 ー 黒のモーニングのテールのない上衣にモーニング用の縞ズボンを合わせる ー にボーラハットをかぶるのが、当時の外交官であり、弁護士であり、銀行員であり、会計士であった。」

北村 汎著『英国診断』には、そのように出ている。著者は1960年代に、駐英日本大使を務めて人物である。ヴェストン・ヌワールは、「ヴェストン・ノワール」のことかと思われる。モーニング・コートであるか、ラウンジ・ジャケットであるかはさておき、いずれの場合にも、ストライプト・トラウザーズがあってこそ、それがひとつの形となり、意味を持ち、ひとつの言葉となるのである。

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