ピラミッドに行った人に、辻 静雄がいます。
いきなりそんなことを言いはじめましても……。「ピラミッド」はフランス、ヴィエンヌの店。1976年のことです。
辻 静雄の「ピラミッド」行きは、今、『ヨーロッパ一等旅行』に収められています。これはヨーロッパの美食をこれでもか探求した珍しい本に仕上がっています。でも、ほんとうの真打は「ピラミッド」なんですね。どうせ「ピラミッド」に行くのなら、ついでによそのレストランも寄ってみようか。ちょっとそんな感じなんですね。
辻 静雄がいかに「ピラミッド」を高く評価していたのか。いや、辻 静雄だけではありませんが。ウインザー公もお忍びで、「ピラミッド」に行っています。
1976年。辻 静雄は自分で「ピラミッド」で食事がしたかったわけではない。湯木貞一に、「ピラミッド」の味を体験させたかった。で、湯木貞一を誘っての『ヨーロッパ一等旅行』となったのです。これもかなり珍しいことなのかも知れませんが。
辻 静雄と湯木貞一が「ピラミッド」に行くと、特別料理が用意されていた。湯木貞一が少しづつ、あれこれ食べられるように。
シャンパンはドン・ペリニョンの1959年。これを開けたのがソムリエ歴六十年の、ルイ・トマジ。ルイ・トマジは音もなく静かにドン・ペリニョン1959年を開けたという。
「ピラミッド」の主、フェルナン・ポワンが世を去ったのは、1955のこと。その後、「ピラミッド」へと続く道は、「ブールヴァール・フェルナン・ポワン」と名づけられたそうです。
1955年にフランスで生まれたのが、ポール・アルテ。ポール・アルテは若い頃から、ミステリ愛好家で、とうとうミステリ作家になってしまった人です。ポール・アルテが1991年に発表したのが、『虎の首』。この中に。
「ジョン・マグレガー少佐は明るい色のコットン・シャツと、ゆったりとした植民地風のショート・パンツ姿で屋敷をあとにし……」
「植民地風のショート・パンツ」。どんなのか。
とりあえず自分好みのショート・パンツで。「ピラミッド」の夢でも見るとしましょうか。