フラスコとフロック

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フラスコは昔、理科に実験で使いましたよね。透明の硝子で、下からアルコール・ランプで熱してみたり。
「フラスコ」frasco はもともと、ポルトガル語から来ているんだそうですね。これが「フラスク」flask になると、英語なんだとか。ポルトガルの「フラスコ」は江戸時代のはじめには、日本にも伝えられていたんだそうですね。

「瑠璃白玉のふらすこにちんだ泡盛……………」。

これは近松門左衛門の、『傾城酒呑童子』の一節。ちゃんと「ふらすこ」と使われています。「ちんだ」は、「色のついた」の意味。「色のついた泡盛」。もしかすればブランデーに似た何かだったのでしょうか。
フラスコが出てくる童話に、『ビヂテリアン大祭』があります。宮澤賢治の作。

「マットン博士はしずかにフラスコから水を飲み…………」。

ヘルシウス・マットン博士は、カナダ大学の教授という設定。そのマットン博士が演壇で講演しているわけですから、フラスコの水を飲んだのです。
宮澤賢治のいう「ビヂテリアン」は、今でいうベジタリアンのこと。菜食主義者。1931年に、ニューファンダランド島のヒルティで、「ベジタリアン大祭」があって。そこに「私」が出席をして。そこから物語がはじまるのです。
ところでこの『ビヂテリアン大祭』は、いくつか原文が途切れています。それは文章上の技巧ではなくて、ほんとうに原文が失われているのです。それでもなお、名作とされるのですから、美事ですね。
ところで「私」は、何を着て「ビヂテリアン大祭」に出席したのか。

「私は三越でこさえた白い麻のフロックコートを着ましたが…………」。

「私」をすぐに宮澤賢治と決めつけることは、できません。でも、白麻のフロック・コート。いいですねえ。一度、袖を通してみたいものです。

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