ルパンで、フランスでといえば、アルセーヌ・ルパンですよね。モーリス・ルブランが生んだ怪盗、ルパン。
「アルセーヌ・ルパン」の登場は、1905年のことです。モーリス・ルブランがちょうど四十歳の時。それまでのルブランは、純文学の作家。でも、なかなかヒットには恵まれなくて。
そんある日。友人であり、編集者でもあった、ピエール・ラフィットに、「娯楽小説を書いてみないか?」と、囁かれる。迷いに迷ったルブランが書いたのが、『アルセーヌ・ルパンの逮捕』だったのです。
ルブランは当然、娯楽物はこれ一作で、また純文学に戻ろう、と。しかし『アルセーヌ・ルパンの逮捕』は、大好評。もちろん続編を書くよう、勧められて。
モーリス・ルブランはどうして主人公の名前に、ルパン Lupin を選んだのか。まあ、言葉遊びと言ってしまえばそれまでのことですが。
ルパン Lupin の固有名詞をむりやり普通名詞に置き換えて。「デュ・パン」 du pain と解するなら、まさしく「パン」の意味にもなります。ここからさらに想像をふくらませて。「明日の糧」と理解することもできるでしょう。
もしもそうだとするなら。「ルパン」という名前にも、作者、モーリス・ルブランの複雑な想いを垣間見ることができるのかも知れませんね。
ルブランはルパンでの大成功により、パンどころかシャトーを買っての、優雅なる晩年を送ったのでありますが。
もしアルセーヌ・ルパンがヴィクトリア時代の倫敦に生きていたなら。そんな興味を満足させてくれるのが、『怪盗紳士 モンモランシー』です。エレーナ・アップデールが、2003年の発表したミステリ。でも、時代背景は、1875年頃におかれています。怪盗紳士の名前が、モンモランシー。モンモランシーが燕尾服を仕立てる場面が、細かく描かれていて。倫敦、リージェント・ストリートの「ミスター・ライオンズ」で。
「ズボンの裾がちょうど靴の甲にかぶさって、爪先が少し出る長さで……………」。
仕立屋のライオンが、モンモランシーに囁いている場面。これはおそらく「ブレイク」についての説明かと、思われます。ズボンがウエスト位置からまっすぐに降りてきて、靴の甲で少し崩れる。この崩れのことを、「ブレイク」。ブレイクは洒落者の生命であります。
ズボンの理想は。もし靴の甲がなければ、足の甲がなければ。きっかり地面から一ミリ上がった所に降りてくるもの。でも、実際には、足があり、靴があるので、致し方なく「崩れる」。よって「ブレイク」が尊重されるわけです。
好みのズボンを穿いて、ルパンの初版本を探しに行くとしましょうか。