リンツという名前のチョコレートがありますよね。スイスに。スイスもまた美味しいチョコレートがたくさんある国です。
L indt と書いて、「リンツ」と訓みます。「リンツ」は1845年にはじまったお菓子屋だったという。なんでもスイス人の、ダーヴィット・シュプリングリーという人がはじめたんだそうです。今に会社名を、「リンツ&シュプリングリー」と呼ぶのもそのためなんでしょう。
「リンツ」は歴史が長いだけあって、いくつかの紆余曲折もあったらしい。かいつまんで申しますと。1879年に、薬剤師だったロドルフ・リンツが新しいチョコレートを考えて。それは固いチョコレートではなく、柔らかいチョコレート。
で、シュプリングリーはどうしたか。リンツと手を組むんですね。それで、「リンツ&シュプリングリー」となったわけです。
わりあい最近のことですと、「シン」 Th ins 。薄い薄いチョコレート。これが「リンツ」の人気商品になったこともあります。
「リンツ」が出てくる随筆に、『ドナウ源流行』があります。齋藤茂吉が1920年代に発表した物語。
「ドナウが墺太利に入り東に流れて匈牙利に入る。その沿岸に、リンツがあり、ウインがあり、ブダペストがある。」
ただしこちらのリンツは、L inz 。つまり地名のリンツではありますが。齋藤茂吉は1920年代に実施に自分の足で、このあたりを歩いているわけです。もしかすればチョコレートの一包みくらい持っていたかも知れませんが。
齋藤茂吉はこのときの旅でいろんな経験をしています。はるか遠景で、若い男女が長いキッスをする場面に遭遇しているとか。これは『接吻』と題する随筆に収められています。
「豆人形ほどの人間の接吻はほとんど小一時間もかかった。」
と、書いたいます。また。
「山のぼりの支度をして、ルックサックを負っている。」
とも。「ルックサック」は、ドイツ風の言い方なんでしょうか。今のリュックサックと考えて間違えないでしょう。
リュックサックをどんな名前で呼ぶかはさておき、これもまた長い歴史があるようですね。
リュックサックで遠出するなら、チョコレートの一包みを入れておきたいものですね。それがリンツなのかどうかは、好みの問題でしょうが。