焼魚は、美味しいものですね。うんと活きのいいのなら、刺身。その次に、焼魚。その次に、煮魚。まあ、これもひとつの順序なんでしょう。
焼魚があって、飯があって味噌汁があって。あとなにか少し。これでもう日本の食事は完成します。少なくとも日本の食事に焼魚は欠かせないでしょうね。
焼魚が出てくる小説に、『にごりえ』があります。明治二十八年に、樋口一葉が発表した短篇。短篇であろうなかろうと、名作中の名作。
「世は御方便や商売柄を心得て口取り焼肴とあつらえに……………………。」
明治二十八年といえば、一葉、二十三歳の時ですからねえ。
一葉は、「焼肴」と書いています。明治の頃には、「焼肴」の書き方が多かったようです。
魚を焼くには、金串を使いなさいと、木村義晴は教えています。昭和三十三年『暮しの手帖』第十六号に。『板前こぼれ話』と題して。金串に打ち方を、懇切丁寧に説いています。
また炭火は備長炭が良いとも。
『板前こぼれ話』ですから、煮魚についても。竹の皮を鍋に敷きなさいと、教えています。こうしておくと、少しの煮汁でも魚が鍋底につかないから、と。なるほど、玄人のコツなんでしょう。
昭和三十三年『暮しの手帖』第十六号に、「脊廣」の値段が出ています。「冬服」で、14,000円から18,000円。もちろん、注文服の場合。要尺は、ダブル幅で、「3ヤール」と出ています。1ヤール当たりの値段、約3,000円とも。
戦後間もなくまでは主に、「ヤール」が洋服の単位だったのです。ヤード y ard 転じて「ヤール」。あのヤード・ポンド法の、ヤード。1ヤールはざっと、⒈143メートル。ヤード y ard は、古代オリエントの、腰布の長さから来ているとも。
ヤールが出てくる小説に、『鳴海仙吉』があります。昭和二十五年に完成した、伊藤 整の長篇。
「この間小樽のある商人のところで、絹糸をホオムスパン風に織った洋服地を見たが、一着分六ヤールで三千円という、相場の三分の二の安いものだった。」
うーん。戦後間もなくの日本に、シルク・ホームスパンがあったんですね。
まあ、それはともかく。ここでも単位は「ヤール」が使われています。
絹のホームスパンで、美味しい焼魚を頂くとしましょうか。