ハリウッドは、映画の都ですよね。映画の都ということは、スタアの都でもあります。スタアの都であることは、洒落者の都でもありましょう。
事実、ハリウッドにはダンディが多い。古い話ではありますが、アドルフ・マンジュウ。「戦前のハリウッドで」ということなら、第一番目に指を折るべき人物かも知れませんね。
あるいはまた、フレッド・アステア。アステアが洒落者であったのは、広く知られているところでしょう。もう少し時代近くところでは、ケイリイ・グラント。
ケイリイ・グラントは、1904年。英國のブリストルに生まれています。イギリスで生まれて、アメリカで活躍した俳優。その着こなしにも、英米の混合というところがあったものです。
ケイリイ・グラントが出てくる随筆に、『男たちへの遺言』があります。2003年に、石津謙介が発表した名著。
「ハリウッド黄金時代に屈指の伊達男といわれたケーリー・グラントは、ドレスシャツのオーダーメイドの際に、実に細々としたところまでに強い「こだわり」を持っていたという。」
そのように書いています。たしかに、ケイリイ・グラントのシャツの着こなしは、典型的なお手本であります。
これはひとつの想像ですが。ケイリイ・グラントのシャツは、糊なしで、アイロンだけで仕上げられるよう、工夫されていたように思われます。
ケイリイ・グラントは、もしかすれば、アイロンでの仕上げは、専門家に任せていたのではと、考えたくもなってきます。
石津謙介著『男たちへの遺言』には、とても良いことがたくさん書いてあります。たとえば。
「ロンドンの中心部、ピカデリーサーカスに程近く、高級紳士用品が軒を連ねるところとして有名なジャーミンストリートに、決して大きくはないが、堂々たる風格をたたえて「ハーヴィ&ハドソン」の店はある。」
「ハーヴィ&ハドソン」はシャツ専門店で、白洲次郎もここを贔屓にしていたそうですね。
もし、できることなら。「ハーヴィ&ハドソン」のシャツを着て、ハリウッド再訪と参りたいものですが。