ファニーは、女の子の名前にありますよね。
F anny と書いて、「ファニー」と訓むんだそうですが。
ファニーはそれほど特別な名前ではないようです。
たとえば、『ファニーとアニー』と題された短篇小説があります。イギリスの作家、D・H・ロレンスが、1919年に発表した物語。もちろん、「ファニー」と「アニー」が登場するので、『ファニーとアニー』の題名なんですね。
「………女を迎えるというのに、襟にカラーさえつけていない!」
物語のはじめに、そんな文章が出てきます。
これはファニーから眺めての、「ハリー」の様子。ハリーとファニーは婚約者同士という設定になっています。
久々のファニーがロンドンから田舎に帰って来て。それを駅にハリーが出迎える場面から、物語がはじまるのです。
一方、ファニーの着こなしは。
「コートもスカートも仕立てがよく、つば広ののベロアの帽子をかぶり、グレーの手袋をはめた手には……………。」
などなどと説明されています。ロンドンのさるお屋敷で女中をしているファニーは、すっかり貴婦人気取りなのですね。
それはファニーと、ハリーの言葉づかいにもあらわれていて。ハリーは地方の、庶民の言葉。これに対してファニーは、都会の言葉。上流階級の言葉。
二人の気持には何の変化もないはずなのに、ロレンスの肌理細かい視線は、その微妙なすれ違いを巧みに描き出しています。
D・H・ロレンスが、1907年に発表した短篇に、『白い靴下』があるのは、ご存じの通り。この中に。
「………スマートな濃紺色のスーツを着、流行のブーツをはき、男らしい帽子をかぶったものだから……………。」
これはレエス工場の社長、サム・アダムズの様子。
サム・アダムズは、女工の「エルシー」に気持があって、なんとか褒めてもらいたい。
それで、「黄褐色」の上着から、「濃紺色」のスーツに換えて、エルシーの気持が動くという場面なのです。
さすがにロレンスは、細かいですね。繊細。たしかに、その通りです。
どなたかダーク・ブルーのスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。