シャムは、タイの旧名ですよね。今は、タイ。昔は、シャム。
あの「シャム猫」というときのシャムです。シャム猫は、もともとシャムの王宮に限って飼われていたというので、その名前がありますます。瞳の色が、サファイア・ブルーであることが、高貴なシャム猫の条件なんだそうですが。
1884年に、門外不出を破って、倫敦に伝えられて、以来、世界に拡まることになったという。
シャム王宮の様子を垣間見るなら、英語『王様と私』を観るに限ります。1956年の、ミュウジカル映画。デボラ・カーと、ユル・ブリンナーとの共演。ユル・ブリンナーが当時のシャムの王様になりきって、公演。デボラ・カーはアメリカから招かれた家庭教師という役柄。
原作は、『アンナとシャム王』。1944年に、マーガレット・ランドンが発表した物語。ただし、これは実際にあった話が元になっています。
映画『王様と私』の中での衣裳を提供したのが、「ジム・トンプソン」。ユル・ブリンナーの着た「王様の衣裳」も、もちろん「ジム・トンプソン」のタイ・シルクだったのです。
「ジム・トンプソン」は、アメリカ人、ジェイムズ・ハリソン・ウィルソン・トンプソンが再興した、タイ・シルクの銘柄。
ジェイムズ・トンプソンは、1906年3月21日に、アメリカ、デラウェア州に生まれています。
1940年代、ジェイムズ・トンプソンが、OSS のバンコック支局長だったのは、公然の秘密。OSS は、現在の CIA の前身。
ただ、ジェイムズ・トンプソンは大戦後も、バンコックに残るんですね。今の「ジ・オリエンタル・ホテル」の復興にも力のあった人物。
しかし、なんと言っても、タイ・シルクの再興を避けて通ることはできません。
ジェイムズ・トンプソンは、衰退一歩のタイ・シルクに注目して、全精力を注ぐ。その結果、タイ・シルクがふたたび脚光を浴びる。
そのきっかけのひとつが、『王様と私』の映画衣裳だったのですね。
でも、ジェイムズ・トンプソン自身は。1967年に謎の失踪。ジェイムズ・トンプソンの失踪は、今なお、解けぬ謎となっています。
1985年に発表された小説、『熱い絹』は、このジェイムズ・トンプソンの秘密に迫った物語。松本清張の力作であります。
ジェイムズ・トンプソンが出てくるミステリに、『王は闇に眠る』があります。フランシーヌ・マシューズが、2002年に発表した物語。
ただし、著者、フランシーヌ・マシューズの前職は、CIA の職員なんですが。
「うだるように暑い街なかを、彼は細身の体に合わせて仕立てた絹のスーツで動きまわった。」
いいですねえ。シルクのスーツ。もっとも絹であろうとなかろうと、スーツは「体に合わせて」仕立てるのが、常識なのですが…………………。