タンとタン

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タンは、舌のことですよね。t ong u e と書いて、「タン」と訓みます。英語のタンは、ラテン語の「リングア」l ing u a と関係があるらしい。意味は、「言語」。たしかに言葉は舌がなくては不自由ですからね。
タン t ong u e は「舌」なんですが、その意味の使われ方も広くて。たとえば、氷山にも「舌」があるんだそうです。よく「氷山の一角」なんてことを申しますが。あの海面から突き出た一角を、「タン」。氷山にも舌があるというお話。
氷山に舌があるくらいですから、靴にも当然、「舌」があります。舌革。あれもまた「タン」ですね。たぶん靴紐が絡まらないようにとの配慮でもあるのでしょう。
舌が絡まる場合。「タン・トゥイスター」。「舌が絡まっちゃって」の意味。発音しにくい言葉。あるいは早口言葉なんかも、「タン・トゥイスター」。
舌が喜ぶものに、タンがあります。タンのステイキ。牛のタン。喉元の太いところを厚く切って、塩と胡椒とだけで、焼く。これまた美味であります。
故き佳き時代のフランスのステイキについて、瀧澤敬一はこんなふうに書いています。

「ビフテーク・ア・ラ・シャトーブリアンの名は日本の通人もよくご存じだが、全国を歩いてみて、一人前百五十円から六、七百円はするようである。」

時代は、1950年代。文中の「全国」はもちろんフランス全土の意味です。
今からざっと七十年前のフランスでは、「シャトーブリアン」が、高くても四、五百円で堪能できたわけですね。涎が出てきます。今なら、ごく控えめに換算して、十倍でしょうか。
瀧澤敬一の随筆『ビフテキのねだん』は、1957年『暮しの手帖』第三十九号に出ています。
その同じ号に、「風変りな家計簿」の頁も。要するに、昭和三十二年頃の日本で、生活費はどのくらいかかるのかを、示しているのです。
もちろん、紳士服の値段も出ています。
たとえば、モーニング・コート。これはイージーオーダーで、28、000円とあります。「ギャバン」のズボンが、1、400円。これも現在なら、約十倍という印象でしょうか。
これらの紳士洋品のひとつに、「ズボン吊り」が出ていて、380円也。つまり、サスペンダーであり、ブレテルであり、ブレイシーズであります。
それは古典的な「タン式」になっているのです。留金式ではなく、専用ボタンに、ブレイシーズ端のタンに留める方式。
どうせなら、クラッシックに参りたいものですね。
さて、古典的なブレイシーズで、タン・ステイキを食べに行くとしましょうか。

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