シェリーは、食前酒ですよね。「シェリー酒」なんて時代もあったようですが。
シェリーは必ずしも食前酒ではありません。が、食中酒ではないことは、確かでしょう。お好きな時に、お好きなように。
シェリーは、面倒がありません。置いてあるシェリーの栓を開けて、グラスに注ぐだけ。ワインのような神経質な酒ではありませんから。
シェリーを愛飲するのも、英國人のひとつの特徴でしょうね。英國人は大昔からシェリーを好み、そしてその習慣を世界に広めたのであります。
もともとのシェリーは、スペイン、ヘレスの白ワインだったのです。中世の白ワインは、輸出の、長旅には適していません。そこで、輸出のために、ブランデーを加えることを思いついたのですね。
このヘレス X er e をイギリス訓みにして、「sh erry 」の言葉が生まれたのです。このことだけをとっても、シェリーと英國とが、いかに深い縁で結ばれているか、分かるというものでしょう。
シェリーを日本にはじめて紹介したのは、福澤諭吉であります。
福澤諭吉は、万延元年に『華英通語』という書を出しているのですが。まあ、一種の辞書ですね。広東語を日本語に置き換えた辞書。これは英語を迂回させるための工夫だったのですね。今から、ざっと百六十年前のことであります。
この『華英通語』にはじめて「シェリー」が登場するのです。
余談ではありますが。「ヴ」の表記。Vの音を「ヴ」で表すのは、福澤諭吉の発明。これも『華英通語』にはじめてお目見えしています。
シェリーが出てくるミステリに、『サラディン公の罪』があります。
英國の、チェスタートンが、1911年に発表した物語。
「やんごとない人物はシェリー酒の杯をかざして鄭重に言った。」
もちろんこの人物こそ、ポオル・サラディン公爵なのです。
また、『サラディン公の罪』には、こんな描写も出てきます。
「服装も派手でその役割にぴったりし頭には白いトップ・ハット、上衣には一輪の蘭、そして黄色のチョッキに黄色の手袋が………………………」。
もちろん、これもサラディン公爵の着こなし。ここに「白いトップ・ハット」とあります。シルク・ハットではないから、「トップ・ハット」。つまり絹張りではなく、ビーヴァーの毛皮を使った、より古典的な帽子のことなのですね。
ああ、ここでも「ビーヴァー」と、福澤諭吉発明の「ヴ」が生きてくれましたね。
さて、シェリーで乾杯と参りますか。