フロックとフォアイン・ハンド

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フロックは、フロック・コートのことですよね。
十九世紀、紳士の日常着だったものです。その前は乗馬服。
十八世紀にはフロック・コートで馬に乗ることもあったらしい。フロック・コートで馬に乗るには、前裾が邪魔に。それで前裾をはねて、後ろにまわしておいた。その前裾を後ろで留めておくためのボタンが、「ヒップ・ボタン」だったのですね。
そしてまた、そんな前裾が邪魔なら、切り落とそう。こうして誕生したのが、「カッタウエイ・コート」。またの名が、モーニング・コートだったのです。

「黑羅紗の半「フロックコート」に同じ色の「チョッキ」、洋袴は何か乙な縞羅紗で、リウとした衣裳附……………。」

双葉亭四迷が、明治二十年に書いた『浮雲』の一節に、そのように出ています。双葉亭四迷は、「洋袴」と書いて、「づぼん」のルビを振っているのですが。
それはともかく、明治二十年頃に、やや丈の短いフロック・コートがあったものと思われます。

「………昨今は官吏始め商人に至るまで黑の綾羅紗仕立てのフロックコートを好むに付、同品も何程か價を引上げたり……………。」

明治十九年「郵便報知新聞」十月二十四日付の記事に、そのように書かれています。
たとえば、「最上等」のフロック・コートは、23円くらいと、出ているのですが。もちろんフロック・コート「一式」での値段として。
この記事の少し前に、こんなことも出ています。

「………濃紺の羅紗は目下京濱間に品切となり、各裁縫店とも非常に繁忙なり……………。」

羨ましい限りであります。

フロック・コートが出てくる小説に、『ナナ』があります。1879年に、フランスの作家、エミール・ゾラが発表した物語。

「ナナの部屋に通ったミュファは、もうフロックコートを脱いでいた。」

十九世紀の昼間ですから、当時、フロック・コートを着ているのでしょう。
また、ゾラの『ナナ』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「………四頭の馬を一人の御者で駆るフォア・イン・ハンド、主人は外のベンチに掛け、召使いたちが中に残っているシャンパンの番をしている郵便馬車……………。」

これはいろんな馬車のあることを描いている場面。
十九世紀のパリでも、「フォア・イン・ハンド」の言葉が用いられることも、あったのでしょう。
もともとは、イギリスでの言い方。四頭立ての馬車。
この高貴な馬車を、貴族の若者がわざと競争に使ったことがあるのです。その先端的な若者が、クラヴァット を簡略に結んだので、「フォアイン・ハンド」。手綱捌きに邪魔にならないように。
どなたか惚れ惚れするほどの、「フォアイン・ハンド」を作って頂けませんでしょうか。

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