香水とコンビネゾン・ダヴィオン

香水は、香り高き、高貴な液体のことですよね。
英語なら、「パフューム」perfume でしょうか。これはフランス語の「パルファン」parfum から来ています。
もともとの意味は、「煙を通して」。古代、まだ香水が発明される前は、香木を燃やして佳い薫りを得た。それで「パルファン」の言葉が生まれたのですね。
人は誰でも佳い薫りを嗅ぐと佳い気分になります。
ブランデーにも佳い薫りがあります。たぶん私たちはブランデーの佳い薫りにも酔うことがあるのでしょう。
香水は気分転換の特効薬でもあります。

香ひのピアノは、一つ一つキイを叩くごとに、一つ一つ記憶が奏鳴する。

北原白秋は、『香水狩猟者』の詩の中にそんなふうに詠んでいます。たしかに香りと記憶とは直結しているのでしょうね。

「「わたしの使っている香水、覚えていてくださったのね」 私は戸惑った。タブーという香水である。」

吉行淳之介が、昭和五十九年に発表した小説『香水瓶』に、そのような一節が出てきます。
昔愛した女性に久々に会う。香水を選んで香水を贈る。香水売場でたまたま買ったのが、タブーだったという内容になっています。吉行淳之介の何かが、何処かでその香りを憶えていたのでしょうか。
「タブー」は、1932年にフランスの調香師、ジャン・カルルが創った香水の銘柄。
1933年に生まれた香水に、「夜間飛行」があります。フランス語なら、「ヴォル・ド・ニュイ」Vol De Nuit
になります。フランスの香水店「ゲラン」のパルファンです。
ゲラン家三代目のジャック・ゲランの調香した名香水です。
「夜間飛行」は、小説の『夜間飛行』にヒントを得た香水。
1931年に、作家でもあり飛行士でもあった、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが発表した小説。
サン=テグジュペリとジャック・ゲランとは、親友だったので。
香水「夜間飛行」の壜は、ほぼ四角。その中にプロペラの模様が刻まれています。文字通り、「夜間飛行」を印象づけているわけですね。
香水の「夜間飛行」は、香料の「ガルバナム」を大量にベースにしているのが、特徴。
小説『夜間飛行』には、印象的な「序文」が添えられているのです。

「この書物の登場人物のひとりひとりは、おのが存るべきこと、その危険な任務に、情熱的かつ全面的に身を捧げ、それを遂行したあとにはじめて、幸福の安らぎを見出す。」

この『夜間飛行』の「序文」を書いたのが、アンドレ・ジイド。ジイドはどうして「序文」を書いたのか。
アンドレ・ジイドは原稿の段階で『夜間飛行』を読んで、感動。自ら進んで「序文」を書かせて欲しい、と。

「彼はアルゼンチンから新しい作品と婚約者とを携えて帰ってきた。作品を読み、婚約者に会った。私は心からお祝いを述べた。」

1931年3月31日の『日記』に、ジイドはそのように書いてあります。
ということは、サン=テグジュペリの『夜間飛行』を作家としてはじめて読んだのは、ジイドだったのでしょうね。
また、ここに「婚約者」と出てくるのは、後の妻「コンスエロ」のことなのですが。
サン=テグジュペリの『夜間飛行』を読んでおりますと、こんな一節が出てきます。

「彼はき着換えをした。今度の祝祭のために、彼はいちばんごわごわした服地と、いちばん重いジャンパーを選んだ。」

これは物語の主人公、「リヴィエール」の様子として。
リヴィエールであろうとサン=テグジュペリであろうと、当時の飛行士がなんらかの飛行服を着たのは、言うまでもないでしょう。
1920年代の飛行機は暖房が充分ではなかったので。
たとえば、革のつなぎを。フランス語なら、「コンビネゾン・ダヴィオン」でしょうか。飛行服。上下つなぎのコンビネイションになっているので。
どなたか街着にも使えるコンビネゾン・ダヴィオンを作って頂けませんでしょうか。