カフスは、カフ c uff のことですよね。「袖口」ともいえるでしょうか。古い時代には、
「カウス」と訛ったこともあったらしいのですが。
「………葛木の手のカウスは白く、杖は細かつた。」
大正三年に、泉 鏡花が発表した『日本橋』に、そのような文章があります。ところが。同じ『日本橋』を読んでおりますと。
「………白い手飾の、あの綺麗な手で扱はれると……………。」
そんな表現が少し前に出てくるのです。泉 鏡花は「手飾」と書いて、「カフス」のルビを添えています。大正三年頃の鏡花のなかでは、「カフス」もあり「カウス」もあったのでしょうか。いずれにしても古語として「カウス」があったとも、言えるのかも知れませんね。
「………せめてカラア、カフスだけでも新しいのにとりかへて、靴も磨いて來たものを。」
明治三十五年に、徳冨蘆花が書いた『思出の記』に、そのような場面が登場します。思わぬ人に出会った時の「僕」の感想として。明治三十五年ということは、西暦の1901年のことで。おそらく「付襟」、「付袖」になっていたものと思われます。
「………膝頭に揃へた兩手は、雪の様なカフスに甲迄蔽はれて、くすんだ鼠縞の袖の下から、七寶の夫婦釦が、きらりと顔を出してゐる。」
夏目漱石が、明治四十年に発表した『虞美人草』に、そのような描写が出てきます。ここでの「夫婦釦」は、カフ・リンクスのことでしょう。また、「七寶」は、エナメル細工のことです。それはともかく明治四十年に漱石は、「カフス」の言葉を使っているのが分かります。
カフスが出てくる小説に、『ラビリンス』があります。2005年に、ケイト・モスが発表した長篇。
「オーティエはワイシャツのカフスを整えながら、腕時計に目をやった。」
「カフスを整えながら」ということは、ダブル・カフのシャツを着ているのでしょうか。
また、『ラビリンス』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。
「ぴったりとした白いTシャツにカットオフ・ジーンズ。そして野球帽。その姿は一見、十代を卒業したばかりのようにも見える。」
これは「アリス」という女性の着こなしについて。
「カットオフ」 c ut off は半分丈のパンツのこと。ただし、細身で直接的なシルエットのものを指す言葉です。
どなたかコットンのカットオフを仕立てて頂けませんでしょうか。