ブランデーは、蒸溜酒のことですよね。br andy と書いて、「ブランデー」と訓みます。
白ワインをさらに蒸溜いたしますと、そのエキスとしてブランデーが生まれます。ブランデーはまた温めても飲める酒でありましょう。ブランデー・グラスが丸いのも、そのため。つまり、手で温めやすいようになっているわけです。ブランデーを手で温めていますと、仄かに薫りが立ちのぼってきます。このブランデーの温められた薫りが、なんとも形容に困るほどです。まさに五感を刺激される酒でありましょう。
ブランデーがお好きだったイギリスの文人に、ジョンソンがいます。あのサミュエル・ジョンソンです。
「なにしろブランデーの風味は味覚にもっとも心地よい。そしてわれわれが酒から得られるものを、ブランデーは何よりもすみやかに与えてくれる。」
ジェイムズ・ボズウェル著『サミュエル・ジョンソン伝』に、そのように出ています。もちろんサミュエル・ジョンソンが語った言葉として。この中でジョンソンは、「ブランデーは英雄の酒」、そうも言っています。
ブランデーが出てくる小説に、『大いなる眠り』があります。1939年に、レイモンド・チャンドラーが発表した長篇。
「私はブランディーをシャンパンと一緒に飲むのが好きだった。」
これは富豪のスターンウッドの言葉として。日本語訳は、村上春樹。
時は、十月半ば。私立探偵のフィリップ・マーロウがはじめて依頼人の、スターンウッド将軍を訪問する場面。
そこでマーロウは、ブランデーを薦められる。ブランデーを三分の一。その上からうんと冷やしたシャンパンを注いで。
では、その時のマーロウはどんな靴を履いていたのか。
「………穴飾りのついた黒い革靴に……………。」
もちろん村上春樹訳。
これが双葉十三郎訳になりますと。
「………黒いゴルフ靴……………。」
と、なっているのですが。
これはたぶん、「ブローグ」br og u e のことかと思われます。英語としては、1689年頃から用いられているとのこと。もともとはスコットランドでの労働靴だったものです。
サミュエル・ジョンソンは、1773年に、スコットランドを隈なく旅しています。今からざっと、250年ほど前のこと。もちろん、スコットランド出身のボズウェルに誘われて。案内されて。
このスコットランドの旅でジョンソン博士は、「ブローグ」の原型を見学しています。それは各人が各家庭で手作りするものだ、と。
それはともかく、1930年代のマーロウはかなり英国的な着こなしをしていたと、想像できるのですが。
どなたか1930年代のブローグを作って頂けませんでしょうか。