ラプサンで、紅茶でといえば、ラプサン・スーチョンでしょうね。漢字だと、「正山小種」と書きます。中国原産の、茶葉。
ラプサン ( 正山 ) は、武夷山のこと。スーチョン ( 小種 ) は茶の木の種類のこと。つまり武夷山のスーチョン茶、ということになります。
ラプサン・スーチョンは、茶葉を乾燥させるのに、松の葉を用いる。近くの松葉を集めて、燻す。当然、茶葉に松葉の薫香が移る。ごく単純にいえば、ラプサン・スーチョンはこの薫香を愛でる紅茶のことです。ただ、手間のかかることと、生産量が少ないので、高価な茶葉でもあります。が、英国人の中にはラプサン・スーチョンこそ最上の茶葉とする人もいるようですが。
ラプサン・スーチョンが出てくるミステリに、『バートラム・ホテルにて』があります。アガサ・クリスティーの、「ミス・マープル物」のひとつ。
「茶は最上のインド、セイロン、ダージリン、ラプサンなどであった。」
これは「バートラム・ホテル」出される紅茶の種類にふれた部分なのです。『バートラム・ホテルにて』は。
「ほとんど誰にも知られていないポケットのような閑静なところ…………」。
と、書きはじめられています。ミステリの「バートラム・ホテル」のモデルは、「ブラウンズ・ホテル」だと考えられています。
ロンドンの「ブラウンズ・ホテル」は、百年前の倫敦がそのままに遺されているホテル。小ぢんまりとして、古典的。そして、紅茶がとびきりのホテルでもあります。単なる、なんということもない紅茶が、夢のように美味しい。魔法の紅茶が出てきます。
アガサ・クリスティーが、ブラウンズ・ホテルを好んだのは、言うまでもないでしょう。また、ラドヤード・キプリングは『ジャングル・ブック』を、ブラウンズ・ホテルで書いたそうですね。『バートラム・ホテルにて』には、こんな描写もあります。
『男は若くて、やせ形、タカのような顔つきで、黒い革の上衣を着ていた。』
「黒い革の上衣」。革はなんの素材なのか。もしかして、ラム・レザーでしょうか。仔羊の革は、しなやかで、着心地の良い革なのですが。