ブリオッシュは美味しいものですよね。なんにも添えなくても、いくらでも食べられてしまいます。
でも、「屋上屋を重ねる」の言い方があるように。ブリオッシュをマーマレードとともに頂くとか。贅沢の極みという感じであります。
ブリオッシュは歴史の古いこともあって、種類もたくさんあるんだそうですね。いちばんよく目にするのは、「ブリオッシュ・ア・テート」。そのまま日本語にすると、「頭のあるブリオッシュ」。てっぺんが丸くなってますよね。だから、「ブリオッシュ・ア・テート」。
あるいは、細長い型に入れて焼くブリオッシュもあるらしい。「ブリオッシュ・ド・ナンテール」。もちろん食べる時には切り分けてから。ナンテールは、フランス中部、やや北に寄った場所にある町。このナンテールで昔から作られているので、「ブリオッシュ・ド・ナンテール」なんですね。これは「ブリオッシュ・ア・テート」より、さらに多くのバターを含ませてつくるんだとか。
ところが十八世紀までのブリオッシュは、バターではなく、獣脂を使うことがあった。そのためにオレンジのエキスで香りをつけたという。オレンジ風味のブリオッシュ。
シャルダンの絵に『ブリオッシュ』があります。ジャン・シメオン・シャルダンは、フランス、ロココ期の画家。『ブリオッシュ』は、1763年の作。シャルダン描くブリオッシュには、オレンジの花が挿してあります。これはオレンジ風味のブリオッシュですよ、と教えているわけでですね。
ブリオッシュもパンなら、トーストもまたパンで。夏目漱石はよく朝に食パンを食べたらしい。食パンを火鉢の火で焼いて、砂糖をまぶして、食べた。明治の頃には食パンに砂糖はそれほど珍しいことではなかったみたいですね。
夏目漱石が明治四十二年発表したのが、『それから』。『それから』の中に。
「二三日、宅で調物をして庭先より外に眺めなかつた代助は、冬帽を被つて表へ出て見て、急に暑さを感じた。」
この場合の「冬帽」は、たぶんソフト・ハットなのでしょう。「代助」はもちろん漱石もソフト帽を愛用したものと思われます。