チョコレートは美味しいですよね。チョコレートは食べても食べても、飽きません。いくらでも食べられて洒落てまいます。
チョコレートは食べるのか、飲むのか。時と場合によってはココアのことをチョコレートとも言いますからね。少し硬い塊になっているなら、「食べる」。とろける液状になっているなら、「飲む」。どちらのチョコレートでも、大満足。
チョコレートがお好きだったお方に、芥川龍之介がいます。どうして芥川龍之介のチョコレート好きが分かっているのか。長男の、芥川比呂志が作文に書いているから。
「そしておくわしの中では一ばんチョコレートがすきです。それからげんこうを書くときには二かいで書きます。それからばんのごはんはたいていおさしみです。そして兄弟の灘は一ばんぼくがすきです。」
芥川比呂志が、小学校二年生の時の、日記。6月24日に書いています。これは、芥川瑠璃子著『双影』に紹介されている作文。芥川瑠璃子は、芥川比呂志の夫人だった人です。
自宅での芥川龍之介は食べることについて、煩いことは言わなかったという。芥川にはもうひとつ好きなものがあって、「赤茄子」。赤茄子は、今のトマト。芥川は好んでトマトを食べた。チョコレートに、トマト。案外、ハイカラだったのでしょうね。
芥川龍之介が、大正八年『中央公論』1月号に発表した小説に、『あの頃の自分の事』があります。小説であるような、随筆であるような。
「するとそこの入口に黒い背広の下へ赤いチョッキを着た、背の低い人が佇んで、袴羽織の連れと一しょに金口の煙草を吸つてゐた。」
これはある日、「私」が帝劇に音楽を聴きに行った場面。「私」は、友人の「久米」と一緒に。と、久米がその人物が誰かを教えてくれる。
「谷崎潤一郎だぜ」
つまりこのコンサートでの谷崎潤一郎は、黒の上着に、赤のヴェストを組み合わせていたのでしょうね。
黒と、赤。時にはいいものです。