オムレツは美味しいものですよね。たとえば、プレーン・オムレツだとか。「私にも作れます」の代表選手でしょう。
でも、簡単に思えるものほど奥が深くて。フランス料理店に料理人が職を求めてやって来たなら。まず、オムレツを作らせる。そのオムレツの手際を見て、どれほどの腕かを判断するんだそうね。
オムレツと題につく随筆集に、『巴里の空の下 オムレツのにおいは 流れる』。石井好子著。石井好子はシャンソン歌手で、そのはじめての随筆家が、『巴里の空の下 オムレツのにおいは 流れる』なのです。
『巴里の空の下 オムレツのにおいは 流れる』は、最初、『暮しの手帖』に連載されて。つまり、花森安治が石井好子に勧めてはじまったもの。あの独特の装幀も花森安治によるものです。この本の中に。
「 「 今夜はオムレツよ」 」。
そんな科白が出てきます。1952年。巴里についたばかりの石井好子のアパルトマンのマダムの声。で、マダムは石井好子のために、オムレツを作ってくれる。見ていると、フライパンにどっさりのバター。
マダムの話。戦争中はバターが手に入らなくて。代わりにハムの脂身を使ったんだとか。まあ、これを読む限り、美味しいオムレツの陰には美味しいバターがあるのかも知れませんね。
昔、モスクワのホテルでオムレツを食べたのが、正宗白鳥。『ソ聯十日』という随筆に。
「山の如く多量のパンやオムレツや果物など、正に天國の食物であると云つていゝ。」
いうまでもなく、ロシアでの朝食なのですが。
正宗白鳥の出身作に、『何処へ』があります。明治四十一年の発表。この中に。
「オーデコロンの香ひが鼻を突いた。」
と、あります。これは主人公の奥さんがつかっている「オーデコロン」。明治の小説に描かれた「オーデコロン」としては、比較的はやい例かも知れませんね。
もちろん今の時代は、かすかなる男の薫りとしても悪くはないでしょう。