人形で、神話でといえば、ピグマリオンでしょうね。ギリシア神話に登場する「ピグマリオン」。
もっともピグマリオンは、彫刻家の名前。彫刻家、ピグマリオンが大理石に彫った像の名前は、「ガラテア」。ピグマリオンが彫ったガラテア像は、美事な出来栄えで。いつの間にかピグマリオンは、ガラテアを愛するように。
そこでピグマリオンはアフロディーテ様にお願いをして、生命を吹き込んでもらう。こうしてガラテアは人形から人間になったという神話。
この神話をもとに戯曲を書いたのが、ショオ。英国の作家、バーナード・ショオ。1912年のことです。戯曲ですから当然、お芝居になって。1913年10月16日。ウィーンで、初演。
ロンドンでの初演は、1914年10月11日。この時、イライザに扮したのが、女優のパトリック・キャンベルであったという。一方、ヒギンズに扮したのが、ハーバート・ビアボーム・トゥリーだったそうです。
もちろん、拍手喝采。でも、あまりにもカーテン・コールが続き過ぎたので、キャンベルとトゥリーは、途中で姿を消してしまったほど。
ところがバーナード・ショオ自身には不満があった。単なる「恋愛劇」と理解されたから。で、1916年に本として出版される時に。『音声学の教授』という序文を書いています。ショオ自身としては、「音声学」の物語という想いがあったのでしょう。
『ピグマリオン』のヒギンズ教授にはモデルがあって、ヘンリー・スウィート。当時オックスフォード大学、音声学教授だった人物。ヘンリー・スウィートは、その人の話し方を聴いて、出身地を明確に当てたそうですね。
「人形」のような女の人が出てくる小説に、『多甚古村補遺』があります。もちろん井伏鱒二の物語。
「多甚古村」は架空の村で。この村で「駐在はん」と呼ばれる、甲田巡査が主人公となるお話。この中に。
「洋風のお白粉をつけ、朱色のーバースエツターを著て訪ねて来た。」
これは11月14日に、駐在にやってきた「マサコさん」という女性なんですね。また『多甚古村補遺』には、こんな描写もあります。
「町へ出かけるときはニツカボツカなどをはいて………………」。
これは「逸見さん」という人物。若い網元という設定になっています。ここでの「ニツカボツカ」は、ニッカーボッカーズのことかと思われます。
「ニッカーボッカーズ」は、ワシントン・アーヴィングの小説から生まれた言葉なのです。もちろん膝の下で括る式の半ズボンのこと。
さて、ニッカーボッカーズを穿いて、私の「人形」を探しに行くとしましょうか。