サモワールとサヴィル・ロウ

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サモワールは、ロシア式の湯沸かし器のことですよね。ロシア人も昔から紅茶がお好きで、いつでも紅茶を飲む準備をしていた。そのための湯沸かしが、サモワール。
金属製の華麗なる薬缶といっても、間違いではないでしょう。ただ、サモワールの下には熱源を置く場所があって、ここで湯を沸かす。沸かした湯は循環させて、保温。つまりは好きな時に、紅茶を淹れることができたわけですね。
日本でいえば茶釜にも似ているのかも知れませんが。日本に茶釜があれば、ロシアにはサモワールがあるのでしょう。もちろんイギリスにも、「ティー・アーン」 tea urn があります。「卓上湯沸かし」とでも言えば良いでしょうか。たいていは銀製で、凝った装飾が施されています。ティー・アーンは大型ポットでもあります。そしてロシアのサモワールと同じように、下に熱源があります。この熱でアーンの中の湯を沸かして、保温。形こそ違え、ティー・アーンもサモワールも同じ考えから生まれたものです。
サモワールが出てくるミステリに、『 皇帝の密書』があります。ブライアン・フリーマントルが、1989年に発表した短篇。

「ロシア人ならかならず持つお茶を沸かす伝統的な銅器。つまり磨きあげられたサモワールが卓上に置いてあった。」

これは、アレクサンドル・ニコラーエビッチ・イワノフ大公の、巴里での自宅の様子。では、大公は、どのような服装なのか。

「 手入れの行き届いた服はアイロン掛けがしてあったものの、どう見ても一時代前の、そう、古き良き時代の古色蒼然としたスタイルだった。」

場所は巴里で、人物はロシア人。でも、なぜかサヴィル・ロウ仕立てではないかと、思われるのですが。
そしてフリーマントル自身も、クラッシック・スーツが決してお嫌いではなかったかと。
クラッシック・スーツを着て、サモワールで沸かした紅茶を飲むのは、ささやかな憧れであります。

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