ビーヴァーとビロード

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ビーヴァーは、動物の名前ですよね。でも、人の名前にもないではないようですが。
1960年代のラジオ番組に、「モコ、ビーバー、オリーブ」というのがあって。なんとなく記憶に遺っています。
ビーヴァーに「s」がつくと「ビーヴァーズ」で、これは午後の軽食のこと。イギリスに「イレヴンジーズ」がありますね。あれと似てなくてもなくて。午後五時頃に、軽くパンとビールだけ。これを「ビーヴァーズ」と呼ぶことがあるんだとか。
古い話をいたしますと、兜の「顎当て」も、ビーヴァー。シェイクスピアの悲劇の代表、『ハムレット』の中に。

「いいえ、見えました、顔当てを上げておりましたので。」

これはホレーショの科白。ハムレットから、「それでは顔は見えなかったわけだな?」と、問われての返事。
この「顔当て」を原文で探してみると。

「ヒイ・ウオア・ヒズ・ビーヴァー・アップ」

と、なっています。ここでの「ビーヴァー」 b e av er は、「顎当て」のこと。古いフランス語の、「バヴィーレ」 b av ièr e が語源なんだそうですが。この場合の「バヴィーレ」は、赤ちゃんのよだれかけを意味したという。
まあ、ビーヴァーにもいろんな意味はあるんでしょうね。本物の、と言っていいのかどうか。ビーヴァーが出てくるミステリに、『ビロードの悪魔』があります。『ビロードの悪魔』は、1959年に、ジョン・ディクスン・カーが発表した物語。ただし物語の背景は、十七世紀の英國になっているのですが。

「金のリボンのついた、山の低い、鍔広のビーバー帽が…………………。」

これは、ジョージ・ハーウエル卿の姿。また、『ビロードの悪魔』には、こんな描写も出てきます。

「お地味ではございますが、ご気品を示すには、恰好の色合いでございましょう? 黒のビロードの上着に半ズボン、黒の長靴下………………………」。

これは、フェントンが着るものを選ぼうとしている場面なんですね。
「ご気品」にははるかに遠い私ですが。時にはビロードの上着を着て、ビーヴァー・ハットをかぶりたいものですが。

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