カスタネットとカーネーション

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カスタネットは、小さな打楽器のことですよね。リズムを刻むには、ごく身近な楽器でしょう。
掌の延長みたいな楽器ですから、たいていの人には扱えるものです。カスタネットはスペインがはじまりらしい。
スペイン語の「カスターニャ」c ast an a から出て、「カスタネット」。これは、「栗」の意味なんだとか。形が栗の実に似ているとか。あるいはまた、栗の木を材に用いるとか。昔は実際に、栗材でカスタネットを作ることが多かったらしい。
カスタネットは二個一対で、「エンブラ」と、「マチオ」。エンブラ h embr a は、女。マチオ m ach o は、男。つまり、高音と低音とが、対になっているわけですね。
カスタネットが出てくる小説に、『虹』があります。川端康成が、昭和十一年に発表した物語。

「兩手を振り振り、カスタネツとまがひに四竹を鳴らし、花子が先頭に立つたから………………………」。
冒頭に、そんな一節が出てきます。
川端康成は、大の甘党だったようですね。というよりも、川端家は客の多い家で。客が来ると、菓子を出す。出すからには主の康成を食べる。そんな感じだったという。

「お客が多くてお菓子をたくさん買って、「喜久月」というお菓子屋さんで、おたく様、何の御商売ですかと言われるぐらいでした。川端は甘いものをお客の時によく食べて………………」。

川端秀子著『川端康成とともに』に、そのように出ています。これは、昭和八年頃の話。川端康成が、浅草、桜木町三十六番地に住んだ時代のこと。
浅草から、谷中の「喜久月」は、近かったこともあるでしょう。「喜久月」は今も、健在。ことに「あおうめ」は、人気商品なんだそうですね。西京味噌を練りこんだ餡が、好まれているらしい。「喜久月」は、大正六年の老舗であります。
えーと、カスタネットの話でしたっけ。カスタネットが出てくる小説に、『北』が。セリーヌが、1960年に発表した物語。

「きっと踊り子、きまっている………タンバリンの他、カスタネットも手にして………………」。

セリーヌの『北』には、こんな描写も。

「車から降りるところを見てみろよ、ボタン・ホールにカーネーション、新郎なみに少年を従え………………」。

これは八十になる、アシルという人物の様子。
たしかに飾り花には、よくカーネーションが使われます。ひとつには花びらの大きさが適当であること。もうひとつには、花の萼がしっかりしていること。
一度ボタン穴に通したなら、襟裏で萼をほぐして、「止め」に使える。つまり、こうしておくと、花がずれることがないのです。
カスタネットで拍子をつけたくらいでは、決してずれることがありませんよ。

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