イグニッションとインディアン・ヘッド

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

イグニッションは、点火装置のことですよね。「イグニッション・キイ」なんていうではありませんか。
「イグニッション」ignition は、1612年頃からの英語なんだそうですが。これは中世英語の「イグニティオン」ignition
がもとになった言葉なんだそうです。
ごく身近なところでは自動車のイグニッションがあります。車に乗って、イグニッション・キイを回すと、自然にエンジンがかかる仕掛けになっています。

イグニッションが出てくるミステリに、『水底の女』があります。1943年に、レイモンド・チャンドラーが発表した物語。原題は、『ザ・レイディ・イン・ザ・レイク』日本語訳は、村上春樹。
『ザ・レイディ・イン・ザレイク』は名作のひとつで、いくつかの日本語訳があります。私は勝手に「村上春樹版」が、決定訳だと考えているのですが。

「私は身を屈めてイグニッション・キーを回し、スタート・ボタンを押した。エンジンがアイドリングを始めた。」

そんな一節が出てきます。ここに「私」とあるのが、私立探偵、フィリップ・マーロウであるのは、いうまでもないでしょう。自動車は1930年代のクライスラー。
ここのところよく読んでみますと。「イグニッション・キーを回しスタート・ボタンを押して」います。。二段階の手数をかけているのですね。
1920年代以前には、もっと面倒でした。車の前に回って、クランク・シャフトを回して、エンジンをかけたものですから。
『水底の女』に限ったことではないのですが、レイモンド・チャンドラーの「マーロウ物」は、一面、おしゃれ教本にもなっています。

「幅の狭いチョーク・ストライプの、つるりとしたグレーのフランネルの背広に、大柄な体躯が収められている。」

これは依頼人の「ドレイス・キングズリーの着こなしとして。キングズリーは香水会社の社長という設定になっています。
1930年代、アメリカの成功者の服装がよく分かる説明と言って良いでしょう。
また、『水底の女』には、こんな描写も出てきます。

「インディアン・ヘッド・ホテルは新しいダンスホールの向かいの角にある、褐色の建物だ。」

マーロウがこのホテルのバアに入ってゆく場面として。
「インディアン・ヘッド・ホテル」。当時のアメリカに、「インディアン」もしくは「インディアン・ヘッド」の名前は少なくなかったでしょう。
その昔、日本では「インディアン・ヘッド」の生地の名前がありました。
薄く、上質のコットン。女性のブラウスや、サマー・ドレスに多く用いられたものです。
よく見ると、生地の表面が細かいドットの織柄になって絹のように光っていたものです。
英語なら「ケイスメント・クロス」でしょうか。その昔、高級カーテン地にも用いられたからでしょう。
どなたかインディアン・ヘッドでシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone