プラトニックは、プラトニック・ラヴのことですよね。「純愛」と言えば良いでしょうか。つまりは精神的恋愛のことです。
プラトニック・ラヴはひとつの理想でしょう。恋愛であろうがなかろうが、なにごとも「理想」があるのは、良いことです。「理想」にどれほど近いのか、はたまた遠いのかを、推し測ることができますからね。
「………あの女には確かに、プラトニックな恋の相手に適しているらしいエクセントリックな所があるね。」
豊島与志雄が、大正十二年に発表した小説『野ざらし』に、そのような一節が出てきます。
これは、「澤子」という女性について。「昌作」と澤子は目下、恋愛中なので。
platonic love と書いて、「プラトニック・ラヴ」。ここからも想像できるように、古代ギリシアの哲学者、プラトンと関係があるようですね。
「僕はただ君だけを愛して、他の何人をも愛してはならず………」
かの有名なプラトンの『饗宴』に、そんな文章が出てきます。
プラトンが「純愛」について述べているところ。おそらくはこのあたりから、「プラトニック・ラヴ」の言い方がはじまっているのでしょう。
プラトニックが出てくるミステリに、『踊り子の死』があります。1989年に、ジル・マーゴンが発表した物語。
「………ふたりの関係は、思春期まえの少年少女のような完全なプラトニックなものから………」
また、『踊り子の死』には、こんな描写も出てきます。
「本体は濃紺のヴェルヴェット地で、襟とポケットの垂れ蓋は明るい青の玉虫色のシルクだった。」
これは「サム・ウォーターズ」という男の着ているデディナー・ジャケットについて。
「ポケットの垂れ蓋」。これはおそらくフラップ flap のことでしょう。
ディナー・ジャケットには、ふつうフラップは省略されます。「室内着」だと考えるからです。
一方、戸外着であるハンティング・ジャケットには、必ずフラップが付けられます。もし雨が降ってもポケットの中身が濡れないように。
上着のポケットのフラップは、言葉なしに、それが室内着であるか戸外着であるかを、暗示しているのです。
どなたかフラップなしのディナー・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。