女房と二重回

女房は、妻のことですよね。
奥様のこと。奥さん言うこともあるでしょう。
丁寧な呼び方としては、「御内室様」もありますね。
あるいはまた、「山の神」だとか。
夫とか旦那よりも、妻の別名のほうが多いのではないのでしょうか。
まあ、亭主より奥方のほうが大事ですからね。
女房と書いて「にょうぼ」と訓みます。でも、、もともとは「にょうぼう」と訓んだ。ここでの「房」は部屋のこと。
その昔、宮中の侍女たちが控えている部屋を、「女房」。
それが後に、「女房」にいる侍女のことを意味するようになったのだとか。
女房からすぐに思い浮かべるものに、「女房詞」があります。宮中の侍女たちが使っていた言葉なので、「女房詞」。
たとえば、「おすもじ」。鮨の女房詞。「鮨」と言ってはあまりに直接的なので、「おすもじ」と遠回しに言った。
「おしゃもじ」ももとを正せば、「女房詞」。
今となっては分かりにくくなっているものとしては、「まき」。これは粽を意味する女房詞だったという。
今なお通用するものに、「おひや」。これまた、女房詞だったものです。
ちょっとひねった隠語に、「紫」。女房詞での「紫」は、鰯のこと。なぜ紫が鰯なのか。
鮎(藍)に勝る味。それで「紫」の言い方があったらしい。
女房が出てくる小説に、『多情多恨』があります。
尾崎紅葉が、明治二十九年に発表した長篇。

「いいじゃないか、結構な事じゃないか。「女房に惚れて家内安全」という言がある。」

これは「葉山」の科白として。
また、『多情多恨』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「車を下りた二人は、霜降の二重外套を着て、挽付の低いのをはいたのの後から、洋服の一人はこつこつと案内されて行くような様子、」

これは上野辺りの料亭に行く場面として。
尾崎紅葉は、「二重外套」と書いて、「外套」の横に「まわし」のルビを添えています。
余談ではありますが、ここでの「挽付」は、引付け下駄のこと。一種の駒下駄のことです。
「二重回」は、日本で生まれた外套。和服の上に重ねるのに、袖が邪魔にならない形だったので。
インヴァーネスの着丈の着物に合わせて、長くして生まれたものです。
どなたか二重回の現代版を仕立てて頂けませんでしょうか。