インクと糸

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インクは、インキのことですよね。でも、インキなのか、インクなのか。
もとはink なのでしょう。ということは「インク」が英語に近いのでしょうか。
英語のインクのもとは、ラテン語なんだそうですね。ラテン語の「エンカウストゥーム」encaustum
から出ているんだとか。その意味は「板に焼き付ける」だったという。
明治の頃には主に、「インキ」と言ったそうです。これはオランダ語からの影響として。でも、昭和になってからは「インク」が多くなったと言われています。

「机上破硯の側らに紅色の墨汁あり。」

1886年に、末廣鉄腸が発表した小説『雪中梅』に、そのような一節が出てきます。末廣鉄腸は「墨汁」と書いて「インキ」のルビを添えています。

「あるとき私達は机の上に角帽を置き、その上にノートやインクを載せて約四十分の休憩時間を雑談に耽つてゐた。」

井伏鱒二が、昭和五年に発表した小説『休憩時間』には、そのように書いてあります。
インキは明治語、インクは昭和語なのでしょうか。

インキが出てくる小説に、『幻滅』があります。もちろん、フランスの作家、オノレ・ド・バルザックの長篇です。

「色は別々に印刷しなければならないので、四種の異なった色インクを刷り込むには、印刷機に四度かける必要がある。」

これは印刷の手順について。バルザックは若い頃、印刷屋を経営したことがあります。印刷の工程にもさぞかし詳しかったのでしょう。
また、『幻滅』には、こんな描写も出てきます。

「黒光りする長靴の上部に濃い黄いろの線がはっきり見えた。」

これは「リュシアン」の履いているブーツについて。
巴里の、リュウ・ラ・ミショディエールの、「ゲー」という靴屋だけが使っている縫い糸のこと。「カミュゾ」はこの「ゲー」の靴が欲しくてたまらないという設定になっています。
うーん。縫い糸にまで凝るんですね。
どなたか赤い糸で縫った靴を作って頂けませんでしょうか。

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