イギリスとイエーガー

イギリスは、英国のことですよね。大英帝国でありまンす。
たとえば、イギリスパンがあります。頭のところが丸くなっている食パンのこと。そうかと思えば、「イギリス巻」。昔の日本で流行った女の人の髪型なんだそうです。

「え、珠ちやん、またあのイギリス巻にいつた、ひよろ高いお嬢様に、お転婆だつてなぶられますぜ。」

明治三十一年に、泉
鏡花が発表した短篇「玄武朱雀』に、そのような一節が出てきます。これは鮨屋の親方の科白として。イギリス巻は明治三十年代に流行した髪型だったようですね。
明治三十六年にイギリスを旅した詩人に、野口米次郎がいます。野口米次郎は、イサム・ノグチのお父さんなんですが。その時の野口米次郎の紀行文に、『霧の倫敦』があります。

「所謂イートン・ジャケットに、シルクハットの扮装をした学生に遭ったが、早や彼等はほんのりとした春霞を肩に背負つて居るやうに感じた。」

これは野口米次郎が道を歩いていると向うからイートン・カレッジの生徒の一郡が歩いて来た時の様子として。

明治三十三年にイギリスに留学したお方に、夏目漱石がいるのは、言うまでもないでしょう。イギリス留学中の夏目漱石は、どんな様子だったのか。これは漱石が『ホトトギス』に発表した『倫敦消息』に、詳しく述べられています。

「時にはイギリスがいやになつて早く日本へ帰り度くなる。」

そんな文章も出てくるのですが。そして、また、朝食については。

「「ベーコン」が一片に玉子一つ又はベーコンニ片と相場がきまつて居る。」

そんなふうにも書いてあります
イギリスはまた、ミステリの本場でもありまして。多くのミステリ作家を生んだ国であります。イギリスの秋冬は夜が長い。暖炉の前で、ウイスキイを傾けながらのミステリには、格別の味わいがあるのでしょう。
イギリスのミステリ作家のひとりに、コリン・デクスターがいます。コリン・デクスターは1930年9月29日、英国のリンカンシャーに生まれています。1975年に『ウッドストック生最終バス』を、発表。これが第一作となった作家ですね。
1994年には、『カインの娘たち』を刊行。この中に。

「着ていたのは茶色と青の縦縞のはいった半袖のワイシャツに黒い、〈イエーガー〉のカーディガン、それにダーク・グレイのフランネルのズボンをはいていた。」

これは、マクルーアという男の服装として。コリン・デクスターの小説には、時折、「イエーガー」のことが出てきます。
「イエーガー」Jaeger
のはじまりは、1884年のこと。ドイツの動物学者、グスタフ・イエーガー博士の論文に共感した結果、ウールを直接肌に着けるのが、健康によろしいとなったものです。
この論文を読んだイギリス人の、ルイス・トマーリンが店を開いたもの。
どなたか黒のウールのカーディガンを編んで頂けませんでしょうか。