イエローとイリデッセント

イエローは、黄色のことですよね。ただ「黄」だけでも意味は通じます。
♪ 黄色いさくらんぼ……
たしかそんな歌が流行ったのを記憶しているのですが。
信号にも黄色があるでしょう。信号が黄色になった瞬間に止まる人もいます。黄色なら悠然と車を走らせるお方も。まあ、人は様ざまということなのでしょう。

「黄なる生絹の単袴長く着なしたる童のをかしげなる出て来て、うち招く。」

『源氏物語』に、そのような一節が出てきます。
ここに「生絹」(すずし)とあるのは、生地の名前。古くは「すすし」と訓んだらしい。
生絹はやや特殊な絹糸で織る。繭から取り出したままの生の絹糸をあえて使って織った、やや粗い生地のことなのです。
『源氏物語』の時代にも、凝った絹があったのでしょうね。

「すずしの腰絹させて、しろきはだへ黒き所までも見すかして、不礼講のありさま、これなるべし。」

井原西鶴の『好色一代男』に、そのように出ています。これは座敷で女相撲を取らせている場面として。
井原西鶴は「すずし」と書いているのですが、「生絹」に違いありません。
『源氏物語』には、「すすし」となっているのですが。江戸の頃には、「すずし」と訓むようになっていたのでしょう。

「いろいろに工夫して少しくすんだ赤とか、少し黄色味を帯びた赤といふものを出すのが写生の一つの樂しみである。」

正岡子規の随筆『病状六尺』に、そんな文章が出ています。
明治三十五年八月九日のところに。
正岡子規は前の日から、パイナップルを描いていて。その色具合について考えている場面なんですね。
黄色が出てくる長篇に、『魔の山』があります。
トーマス・マンが1924年に完成させた物語。これはスイスの高原、サナトリュームが背景になっています。

「黄色い防水マントにつつまれて大きくなったが、だいたいにおいて元気であった。」

これは物語の主人公、ハンス・カストルプ自身の育った環境について。
「大切に育てられた」と語っているのでしょう。
また、『魔の山』にはこんな描写も出てきます。

「黒っぽいというよりはむしろ黒い、ときどき玉虫色に光る絹の薄地の服で、」

これは「ショーシャ夫人」の着ている服装として。
「玉虫色に光る」、これは「イリデッセント」
iridescent のことかと思われます。
もともと「虹」を意味する言葉だったという。
縦糸と、横糸の色を違えて織ると、見る角度によって色が変わります。これが、イリデッセント。
どなたか絹のイリデッセントで上着を仕立てて頂けませんでしょうか。