パテント・レザー(patent leather)

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正装の親友

パテント・レザーはエナメル・レザーのことである。エナメル革は表面にエナメルなどで保護して、輝きを出したレザーのこと。

時に、「ヴァーニッシュト・レザー」 varnished leather とも。「ヴァーニッシュ」はニスのことだから、「ニスをかけた革」の意味である。「パテント・レザー」は多くアメリカで使われるのに対して、「ヴァーニッシュト・レザー」はイギリス的な表現となる。

パテント・レザーでよく知られているのは、オペラ・パンプス。夜の正装用靴。「ボール・シューズ」 ball shoes とも。つまりはパテント・レザー・シューズ。ブラック・タイやホワイト・タイに合わせる靴でもある。

昔の正式なパーティには食後のダンスがつきもので、相手のドレスの裾を靴墨で汚さないための配慮だとされる。パテント・レザーには靴墨を使うことがないから。

しかしパテント・レザーはドレス・シューズに限ったことではない。場合によってはベルトや鞄に使われたりもする。今もそうであろうが、学生帽をはじめとする制帽のヴァイザー (ツバ ) にもパテント・レザーが使われることがある。

パテント・レザー patent leather そのものは、「特許を得た革」の意味である。1820年代のアメリカで、この製法が特許を得たという。それは最初、馬具の一部に使われたとのこと。

「伝統派の人びとはタキシードであれ、イヴニング・コートであれ、その足許にはシルク・ボウがあしらったパテント・レザーのパンプスを履くべきだと主張する。」

ベルンハルト・ローツエル著『ジェントルマン』 (1999年刊 )には、そのように出ている。伝統派であるかどうかはさておき、ドレスアップした時にパテント・レザー・シューズを履くのは気分の引き締まるものである。第一、フォーマル・ウエアを除いてはパテント・レザー・シューズを履く機会が少ないではないか。

「ブラウンのシルク・ストッキングに、金のバックル付きの、よく磨きあげられたヴァーニッシュト・シューズを履いている。」

サー・ウォルター・スコット著『男の様式 あるいは占星術師 』 (1815年刊 ) に出てくる一文。少なくとも1810年代の英国に「ヴァーニッシュト・レザー」のあったことが窺えるだろう。「よく磨きあげられた」とは、なにか専用の透明のワックスがあったのだろうか。もちろん今の時代には、パテント・レザー用のポリッシュが用意されているのだが。

「ジャパンド・パテント・レザーに関する書類を今まさに受領したところである。」

1829年『アメリカン・アドヴァタイザー』紙7月29日号の一節。これはアメリカンでの「パテント・レザー」の比較的はやい例かと思われる。1820年代にあっては「ジャパンド・パテント・レザー」の表現があったのだろうか。ここでの「ジャパン」Japan は、「漆塗り」のことである。

「ヴァーニッシュト・ブーツは、ダンシング・パンプスと同じく目下の流行品となっている。」

1836年『ザ・ジェントルマンズ・マガジン・オブ・ファッションズ』の記事の一文である。ここでも「ヴァーニッシュト」の表現であるが、要するに1830年代の英国でパテント・レザーによるブーツに人気のあったことが分かる。

「彼ら若き紳士たちは、その日のために用意されたパテント・レザー・シューズを履いていた。」

ジョージ・フォスター著『ニューヨークの一齣』(1849年刊 ) に、そのような文章が出ている。1840年代のNYでも、パテント・レザー・シューズは流行品であったのだろう。

「彼はパテント・レザーの鍔のついた白いヨット・キャップをかぶっていた。」

1898年『カンサス・シティ・スター』紙 12月18日号の記事の一文である。パテント・レザーが帽子の前庇にも使われることはすでにふれた通りである。

「その翌日、レオンは窓をひらいて、露台の上で鼻歌を歌いながら、自分で上靴にエナメルを塗った。上から上から塗りたてた。」

フロベール著『ボヴァリー夫人』 (1815年刊 ) の一節。1810年頃のフランスでは、エナメルを自分で塗ることもあったものと思われる。

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