レッド(red)

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高貴なる光輝

レッドは言うまでもなく赤のことである。赤の中の赤が、真紅であり、深紅なのであろう。そしてまた緋色も広くレッドの仲間である。
フランスなら「ルージュ」 rouge であろうか。イタリアで、「ロッソ」 rosso 。英語の「レッド」 red はラテン語の「ルベール」ruber と関係があるようだ。
しかし私たちはふだんの生活の中で、ごく自然にそれらを使い分けている。たとえばレストランなどでも、「レッド・ワイン」と言い、「ヴァン・ルージュ」と言い、「ヴィノ・ロッソ」と言うではないか。
さらには色名として、「バーガンディー」があり、「ボルドー」がある。ヴァン・ルージュの赤は天然自然の色である。が、絹にとっての自然の色は、ヴァン・ブランに似ている。もし真紅の色を求めるなら、赤に染めるしかない。
もちろんシルクに限ったことではないが、古い時代から赤は「コチニール」で染められてきたのである。コチニールは染料だけでなく、絵具の材料でもあった。化粧品の材料となったこともある。コチニールはある種のサボテン好む小さな虫なのだ。千年もの間、真紅はコチニールの赤だったのである。
日本でも西洋でも「禁色」 ( きんじき ) ということがあった。王侯以外は着てはならない色のことである。それら紫と、赤とであった。紫はさておくとして、赤は高貴なる色であったのだ。
もう少し身近かなところでは、「レッド・カーペット」ということがある。これは実際には「最上級のもてなし」の意味になる。その昔、貴人を迎えるには入口にレッド・カーペットを敷いたからである。これは今でもアカデミー賞の会場をはじめとして、行われていることだ。
イギリスには「レッド・ラティス」 red lattice (赤格子 ) ということがあった。かつては「居酒屋」の意味でもあった。
ヘンリー王の時代、フィッツウォーレン家の酒の販売が許されたことがある。そこでフィッツウォーレン家の旗印である、「赤格子」が酒のある所を意味するようになったものだ。
一方、「レッド・コート」は「英国兵」の意味になる。近代戦以前のざっと千年の間、英国軍は赤い上着をユニフォームとしてきたからである。
レッド・コートの由来はセント・ジョージの神話と関係がある。セント・ジョージは303年にキリストに殉したので、聖者となった人物。セント・ジョージは英国、コヴェントリーの生まれ。幼い頃、魔女にさらわれたとの伝説がある。
セント・ジョージは大人になって今のリビアに行き、その国のサーブラ姫の命を救う。赤い怪龍におそわれたところ、セント・ジョージが退治したのである。
セント・ジョージは英雄となって姫と結婚して、コヴェントリーに凱旋したという。このセント・ジョージの物語から、赤い上着は勇者の象徴になったという。
1695年、ラルギリエールが描いた『ジェイムズ・スチュアートとその妹ルイザ・マリア・テレサ』の絵にも真紅があらわれている。ジェイムズ・スチュアート自身は緋色のジュストコールを着ている。襟元には白いレエスのクラヴァットがあしらわれている。これは高貴の赤であろうか、勇者の赤であろうか。
これは単なる一例であって、肖像画に描かれる偉人、貴人たちが赤い衣裳であるのは、枚挙に暇がない。

「はるか昔から、赤はいくつもの文化において神聖な色とされてきた。 ( 中略 ) 古代中国では赤は幸運の色とされ、繁栄と健康の象徴だった。」

エイミー・B・グリーンフィールド著 佐藤 桂訳『完璧な赤』にはそのように説明されている。ここでも時と所を超えて、赤がいかに賞賛されてきたかが、詳述されている。

「太陽によって日がアケル。そのアケルという言葉が「アカ」になった。アカはまさに神の色といえるのである。」

吉岡幸雄著『日本の色辞典』の一節である。なるほど赤は太陽の色である。太陽が森羅万象の生命を司っている。そうであるなら、「神の色」というのも当然であろう。

「その上に空は夕焼け、真紅の雲が放射線をなして天空まで伸びて来た。」

大岡昇平著『野火』に出てくる文章。時は1940年代、所はフィリピンの戦場。主人公は極限状態にある兵士。その兵士は毎夕、ひとり抜け出して、海を眺めに行く場面。そこで「真紅の雲」を見る。それはおそらく「神の色」であったに違いない。

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