イプセンは、ノルウエイの作家ですよね。ヘンリック・イプセンは、1828年3月20日、ノルウエイに生まれています。
イプセンといえばやはり『人形の家』でしょうか。少なくとも『人形の家』がイプセンの代表作であるのは、間違いないでしょう。1879年の発表。女性が独立をする、当時としては新しい考えの戯曲になっています。では、イプセンは『人形の家』をどこで完成させたのか。イタリアで。
「ようやく新しい戯曲を完成いたしました。これまで三月のあいだこの作品にかかりきりだったので…………………」。
1879年の9月。イタリアの、アマルフィから出した友人の手紙に、そのように書いています。「この作品」が、『人形の家』であるのは言うまでもありません。もっともイプセンは最初『ノラ』の題を考えていたのですが。
手紙といえば、イプセンは1889年に恋文を書いてもいます。
「私はあなたを、すばらしい夏の幻影として知っていました、王女さま。チョウチョウや、野花の一部としてね。本当に、冬にもう一度お会いしたいものですね!」
これは、1889年12月30日の手紙。エミーリエ・バルダッハに宛てての。
1889年の夏。イプセンはチロルの避暑地で、エミーリエ・バルダッハに出会う。そして恋心を。エミーリエ、十八歳、イプセン、六十一歳の時に。まあ、ご立派なことで…………。
イプセンが出てくる小説に、『若い藝術家の肖像』があります。もちろん、ジェイムズ・ジョイスの傑作。
「イプセンの精神が、少年らしい気まぐれな美の精神が…………………」。
そういえば、ジェイムズ・ジョイスの奥さんの名前も「ノラ」でしたよね。また、『若い藝術家の肖像』には、こんな描写も。
「くりが深くて低いカラーとイートン服のせいで…………………」。
もちろん主人公、ディーダラスの感想。イートン・ジャケットはいうまでもなく、英国、イートン校の制服。ただし当時は、ひとつの流行として、一般の服装にも取り入れられたことがあるんだとか。
ディーダラスは流行の服として「イートン服」を着ているわけですね。イートン・ジャケットの最大の特徴は、シャツの襟を、上着の外に出して着ること。ふつうのスーツならたとえイプセンでもそんな着方はしないでしょうが。