クチナシは、もちろん植物ですよね。クチナシの花は、白い。そして時期になると、実をつける。クチナシの実は大きくなってからも、開くことがありません。それで、「口無し」なんだとか。
将棋盤の脚にはクチナシの実の模様を彫ることになっています。これは見物人の、「口出し無用」という意味が込められているんだそうですね。
クチナシなのか、くちなしなのか、はたまた梔子なのか。もとは同じでしょうが、文字によって微かに印象が違ってくるのです。くちなしなら、渡 哲也の『くちなしの花』を想い浮かべてみたり。
クチナシの実は漢方薬の原料ともなるらしい。また、健康的な染料としても。
九州の大分に、臼杵という町があります。臼杵の名物に、黄飯。黄飯はふつう、「おうはん」と訓みます。ただ、地方によっては「きはん」とも。これは黄色いごはんなので、黄飯。
この黄飯を染めるのに使うのが、クチナシの実なのです。まあ、スペインのパエリアと似ていなくもありませんが。クチナシが出てくるミステリに、『チャイナ・オレンジの秘密』があります。『チャイナ・オレンジの秘密』は、1934年に、エラリイ・クイーンが発表した物語。
「支配人のナイはモーニングのえりに彼自身みたいにちょっとしなびたクチナシの花などさした優雅な人物だったが…………………。」
たしかに、クチナシの花は、グレイ・モーニングにも似合うでしょうね。また、『チャイナ・オレンジの秘密』には、こんな描写もあります。
「例の首のところまである特殊な牧師服用のチョッキを着ていたに違いない。」
ここでの「牧師服用のチョッキ」とは、クレリカル・ヴェストのことでしょう。立襟の、身体にフィットしたチョッキ。
時にはクレリカル・ヴェストを着て、クチナシの花を挿してみたいものですが。