イギリスとイェーガー

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イギリスは英国のことですよね。
イングランドとも言います。大英帝国。昔は、「英吉利」などの宛字もあったようです。
イギリスも島国なら、日本も島国。それで似ているのが、「左側通行」。車は道の左側を走ることになっています。
一方、ヨオロッパではたいてい、「右側通行」。
これはナポレオン・ボナパルトと関係があるんだそうですね。ナポレオンは左利きで。剣を腰の右側に差して。剣を右に差して、馬で道の左側を走らせると、対向者の剣とぶつからないとも限らない。そこで右側通行にして、サーベルとサーベルとがかち合わないようにした名残りなんだとか。
それで今なお、当時ナポレオンが征服した国々では、右側通行が多いんだそうですね。
昔むかし、ヨオロッパで人気が高かったものに、イギリスの「エール」があります。昔とは、十二世紀頃の話なのですが。
その頃のヨオロッパでは、多くワインを飲んだ。一方、イギリスではエールを飲んだ。
エール al e は大麦を使っての、上面発酵のビールのことです。
このイギリスの「エール」が、コクがあって、果実風味もあって、美味しいという評判だったという。
でも、今のイギリスでの日常会話では、エールとビールはやや混同される傾向にあります。
たとえば、『お菓子とビール』。これは1930年に、イギリスの作家、サマセット・モオムが発表した長篇。
原題は、『ケイクス・アンド・エール』になっているのです。では、この場合の「エール」が厳密にエールを指していたのかどうか、なんとも言えないところでしょう。
それではモオムはなぜ、ビールではなく「エール」の言葉を選んだのでしょうか。もちろん推測にしか過ぎないのですが。
一般にイギリスでの会話ではビールよりも「エール」の上品だとされるんだとか。もしかすればモオムは語感の美しさから「エール」を採ったのかも知れません。
「エール」らしいものが出てくる小説に、『大晦日の夜の冒険』があります。1815年に、ホフマンが発表した創作。

「ぼくはシュテッティン産ビール一瓶と、大きなパイプ上等のつめてもってこいと注文した。」

これは物語の主人公が、「地下酒場」で、ビールを飲む場面。
日本語版の、大島かおりの「解説」によりますと。
「シュテッティン産ビール」とは、「上等のイギリス風ビール」と説明されています。私は勝手に「エール」ではないかと見当をつけたのですが。
ホフマンの『大晦日の夜の冒険』を読んでいますと、こんな文章が出てきます。

「イェーガー街のティアマンの店のすぐそばまで来た。」

これは十九世紀の、ドイツはマインツの街でのこと。「ティアマン」は実際にあった食料品店の名前で、ホフマンもよく通ったとのことです。
ここでの「イェーガー」はもちろん、通りの名前。地名に外なりません。が、私はつい、ロンドンの名店「イェーガー」を連想したものであります。
「イェーガー」 J a eg er は、1884年の開店なんだそうですね。倫敦のフォア・ストリートに。『ドクター・イェーガーズ・サニタリー・ウーレン・システム』が最初の店名だったという。
経営者は、ルイス・トマリン。もともとは会計士でありました。ルイス・トマリンは、1880年にドイツのグスタフ・イェーガー博士の本を読んで、感動。それで、イェーガー博士の許可を得て店を開いたのです。
グスタフ・イェーガー博士は動物学の権威で。
「ウールを直接に肌に触れるのは健康によろしい」
そんな学説だったのですね。
つまり「イェーガー」のもともとの目的は、「素肌のウール」が狙いだったわけであります。
その意味ではシルクもまた動物性繊維で、直接肌に触れるのは佳いことなのでしょう。
どなたかシルク・ニットのスェーターを編んで頂けませんでしょうか。

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