キッドは、仔山羊革のことですよね。
また、時によっては「少年」の意味にも。
kid と書いて「キッド」と訓みます。
♪ 歌も楽しや 東京キッド いきで おしゃれで ほがらかで……
美空ひばりが、昭和二十五年に歌った『東京キッド』。もちろん「少年」の意味であったわけですが。
「小助は苦笑した。するとキッドの手袋を穿めた、うねうねとした長い腕が、彼の口の端を軽く突いた。」
これは「江美子」の仕種として。
今 東光が、大正十四年に発表した小説『痩せた花嫁』に、そんな一節が出てきます。
当時の横濱が背景になっている短篇なのですが。
キッドは薄く、光沢があり、伸縮性にも富んでいます。それで、手袋の材料としても多く用いられるのでしょう。
もちろん軽いところから靴になることもありますね。
キッドは、人の名前にもあります。たとえば、ウイリアム・キッドだとか。この場合には、Kidd と綴るのですが。
ウイリアム・キッドは本名。通称、キャプテン・キッドと呼ばれた十七世紀の海賊。
キャプテン・キッドは1635年に、スコットランドに生まれたという。
キャプテン・キッドは1701年5月23日に、波瀾万丈の人生を閉じています。ロンドンで。
十七世紀末、「アドヴェンチャー・ギャレー号」に乗って、世界中を荒らしまわった海賊。「アドヴェンチャー・ギャレー号」は完全に武装されているので、並の船は相手ではなかったそうですね。
一節に。キャプテン・キッドは自分の名前に肖って、深紅のキッドの手袋を愛用していたとのことです。
キャプテン・キッドは奪った財宝を密かに隠していたという。それで今なお、キャプテン・キッドの宝の山を見つけるのが夢。そんな探検家もいるんだとか。
キッドが出てくる『日記』に、『サミュエル・ピープスの日記』があります。
「いとこのジョイス・ノートンがワインと菓子を二階に置いて、会葬者に配っていた。この人たちには白手袋を渡した。」
1664年3月18日の『日記』に、そのように書いてあります。
これはピープスの親類が亡くなったので。
会葬者にワインとビスケットを出す。これは当時の英国での習わしになっていたこと。同じく白いキッドの手袋を配る習慣もあったという。
この時の白キッドの手袋、九シリングだったそうですが。
『サミュエル・ピープスの日記』は、その時代の英国のいろんな生活が描かれていて、興味深いものがあります。
「彼の意見では、キャラコはリンネルで、昔からそう考えられているのだ、ということだった。」
ここでの「彼」は、「サー・マーティン・ノエル」という人物。
なぜ、ここにキャラコが出てくるのか。
その時代の英国海軍では、船旗にキャラコを使っていて。この船旗の調達もまた、ピープスの仕事だったので。
リンネルよりもキャラコのほうが、5パーセント税率が安かったので、無関心ではいられなかったのでしょうね。
英語の「キャリコ」carico は、1540年頃から用いられているとのこと。
その昔、インドのカリカット港から運ばれて来た布地だったので、キャリコになったという。
どなたかキャラコのシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。