シュークリームとシューズ

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シュークリームは、美味しいですよね。また、洋菓子のなかでは気取りのないところもよろしい。
ただ、たべやすいか、と言われたなら、そうでもない。手で持って口に入れると、口も手もクリームだらけになったりして。だから、というわけではありませんが。昔、お見合いの席にはシュークリームは出さなかったらしい。
シュークリームもまた和製英語で。フランスでは、「シュー・ア・ラ・クレーム」。そのままに日本語にしますと、「キャベツ風クレーム」。あのシュークリームの皮をキャベツのようだと表現するのでしょうね。
以前、ある人がロンドンの高級ホテルに泊まって。「シュークリームをお願い」と電話。と、靴墨が届いたという話があります。なるほど靴墨もまた、「シュー・クリーム」ですよね。イギリスではふつうシュークリームのことを、「プロフィトール」と呼ぶことが多いんだそうです。
シュークリームに似たものに、エクレアがあります。エクレアは1850年、リヨンで生まれたとの説があります。もっともその時には、「デュシェス」という名前だった。「公爵夫人」の意味。
エクレアは「エクレール」から来ていて、「電光石火」の意味。たぶん、電光石火のようにすばやく食べるべし、ということなんでしょう。
シュークリームは明治の時代から、生活の中に入っていたようですね。たとえば。

「染八は夜の内よりワップル。シユークリームなどのお周の好める種々を調へ置きて…………」。

小栗風葉著『鬘下地』にはそのように出ています。原文には、「ワップル」とあります。おそらくは明治語なのでしょう。小栗風葉の『鬘下地』は、明治三十二年九月に刊行されています。小説にあらわれるシュークリームとしては、かなりはやい例かと思われます。
小説ということなら、志賀直哉著『大津順吉』にも出てきます。

「シュークリームのクリームだけを匙で嘗めた。」

これは主人公が、病みあがりの時の様子なんですね。また、こんな描写も。

「そして二人共燕尾服で踊り靴を穿いていた。」

「踊り靴」。これはおそらくボール・シューズ ball shes のことなのでしょうね。あのエナメルの、パンプス。エナメル革はシュー・クリームを使わないので、舞踏の時、相手のイヴニング・ドレスの裾を汚さない配慮なのです。

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