嵐山とアスコット

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

嵐山は京都の名所ですよね。嵐山には桂川があって、渡月橋があって。夏目漱石は。

「京は所の名さへ美しい。」

そんな風に書いています。たしかにその通りです。夏になると、桂川に沿って蛍の飛び交うことがあって。嵐山での蛍狩の様子が出てくる小説に、『女優』があります。『女優」は昭和三十九年に、瀬戸内晴美が発表した物語。もちろん今の、瀬戸内寂聴。でも『女優』は、「瀬戸内晴美」の名前で書かれていますので。

「今夜、六時から、嵐山で蛍狩の船出すさかい、どうでもお嬢さんにお越し願えいうことでんね」

女優、未来子のもとに、使いの者が誘いに来る場面。で、未来子は嵐山へ。嵐山には舟が用意されていて、舟の上から蛍を眺めようとの趣向。「蛍狩」とはいうものの、とらえるわけではなくて、ただその光の飛ぶ様を愛でるのですが。

己が火を 木々の蛍や 花の宿

芭蕉もまた、そんな風に詠んでいます。少なくとも芭蕉の時代には「蛍狩」ということがあったのでしょう。
瀬戸内晴美著『女優』は、モデル小説でもあります。これは著者自身が語ってもいるのですが。女優 未来子は、実在の、嵯峨三智子。今、嵯峨三智子といっても遠い記憶の彼方かも知れません。が、昭和三十年代の、映画の、女優の有り様がどうであったのか。それを知る上では貴重な資料でもあるでしょう。
『女優』の中に、こんな描写が出てきます。

「アスコットタイを結んだ何気ない笑顔の晃の写真が未来子を見下ろしていた。」

「晃」は、未来子と交際のあった若き男優という設定。
ここでの「アスコットタイ」は、スポーツ・アスコットのことかと思われます。アスコット・スカーフとも。礼装用のアスコット・クラヴァットではなく、遊び着にふさわしい、柔らかいスカーフ状のアクセサリー。よくスポーツ・シャツの頸元に結んだりします。
アスコット・スカーフは、一度、プレーン・ノットで結んでおきます。その後に、長い一端を、後ろから前に通して、仕上げる。こうすると頸元のふくらみがいっそう美しいものです。もちろん、蛍狩にも使えそうですが。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone